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なにかあり/とくになし

事実は小説より鈍なり、そして純なり

吉本浩二日本をゆっくり走ってみたよ」2巻(アクションコミックス)を
ようやく手に入れた。


1巻の時点で
この実録旅漫画は
すでにすごかった。


全国の
遅れた青春を生きる
「ここではないどこかを探して」患者のハートを
そのバカな性根をやさしく甘やかすように見えて
とことんまでせつなくみっともなくえぐりとっていた。


バイクに乗って全国一周。
それも
片思いのあの娘(Eさん)に
告白するためだなんて。


バカバカバカバカバカバカ、
浩二のバカ。


そんなレトリック
今どき漫画でもやらないよ。


でも
その無謀な論理が成立するのは
実はこれが現実だからだ。


事実は小説より奇なり、じゃなくて
事実は小説より鈍なり、そして純なり。


信じるおれもどうかしてるぜと
本を持つてのひらと胸が同時に熱くなった。


で、
その2巻は完結編。


もっと丹念に
旅のこまごまを延々と描いていくのかなと思いきや、
結構いさぎよく2巻で終わり。


こまごまと描いておもしろいほどの現実なんて
そんなにないのよというのも
現実のおそろしさでもある。


だが
そのとりたてておもしろくもないことを
ゆがめてまで笑いに走らず、
むしろいつでも真に受けて
おおいに狼狽し
めげたり励まされたりしながらも
なんとかふんばる超受け身力が
吉本浩二のしぶとい力だ。


全国一周のエピソードのなかでも
ひさしぶりに会う
地方に住む友人の家を何軒か訪ねる話が好きだ。


「どこにもいかない」日常を
ひたひたと生きる友人たちへの
吉本さんの尊敬のまなざしや、
好きな仕事で生きているように見えて
はかなさやもろさをはらむ
自分の現況のおぼつかなさへの自覚は、
ぼくには結構ぐぐっとこたえる。


ストーリー上
なにがどうなったかは
ここでは書かないが
エンディングについて
ぼくは支持します。


コミック巻末の対談も
間違っても吉本さんを
「ちょっといい話」系の
なごみ漫画家にしてしまわないための
ナイス・アシスト。ね。