mrbq

なにかあり/とくになし

ちゃんと伝えたいこと

街はずれの
しがない風情で営業しているラーメン屋がある。


阿佐ヶ谷だけでも
何軒もある。


もしかしてこの店
見かけがしょぼいだけで
食べたら超うまい、なんて期待は
もうこの歳になったらしない。


やたら塩気の強いチャーハン、
ゴムみたいな麺のラーメン、
水っぽいうえに皮もやぶれた餃子……。
ああもうこりごりですよ。


しかし
そういう店にも
需要と供給の原則は存在する。
毎日のように訪れる近所のおじさんたち。
店のひとたちと一緒に夕方のテレビを見て、
ああでもないこうでもないと
適度に息を抜く。


工夫と努力でしのぎをけずる
行列の人気店だけでなく、
そういうありきたりな店も
日本の街の景色を支えてきたのだと
実は身にしみてよくわかっているつもり。


「うまいかもしれねえけど
 おれらにはよくわかんねえなあ」


つくる側にも
食う側にも
ついつい宿る
食えりゃいいじゃないか、
そんな気分。


ぼくだって
それでいいって気分になるときもあった。


いわゆる夕刊紙にときどき掲載される
なんだか力みの抜けたカルチャー系の記事にも
それに似た
憎めなさを覚える。


記者が持ってきた記事を
50代くらいのデスクが
思い切り赤入れして
自分ではこれでいいと思う
特別な味も匂いもしない
ありふれたものに推敲していくような感じ。


「おもしろいのかもしれないけど
 おれにはよくわかんねえなあ」


でも今日
ぼくは珍しく
どうしてもゆずれない気分になった。


ニュースがわかりゃいいじゃないかとは
思えなかった。


発端は
Yahoo!のトップページに掲載された
ある記事


ニュースそれ自体は
素晴らしいことだ。
まさに胸を張って伝えるべき快挙。


だが
その記事の論調を
どうしても気持ちよく飲み込めなかった。


「ピンク・マルティーニ」について
もっと最低限字数を割くべきだし、
その両者の共演が叶った経緯についても
もうすこし説明があるべきだ。


ネット掲載なんだから
リンクもしっかり貼るべき。


くわえて
(音楽情報誌ライター)のコメントも
なんだか意味ありげなようで実はかなり適当。
いったいだれなんだ、これ。
名前を隠して言うほどの差し障りのあるコメントでもない。


もっと言うと
なんかこう
このニュースに対する疑問符じゃなくて
誇りみたいなものがもっとあっていい。


というか
それがないという事実が
そんなものあったってしゃあないという諦観が
街のラーメン屋の実情と
重なってぼくには見える。


なんか
そうやってまるめこまれるのが
今は
イヤなんだ。


なので
ぼくがこの記事の担当だったら?
というまるっきり架空の設定で
一文書いてみました。


なお
見出しも含め、
全体の字数もほぼ同じ条件です。


===================================


〈日本のポップスの真価が認められる?〉


 歌手の由紀さおり(62)の歌声が、今、海外で鳴り響いている。
 由紀は今年、アメリカのオレゴン州を拠点に活動している実力派ポピュラー音楽グループピンク・マルティーニとのコラボレーションアルバム「1969」を発売した。この共演は、かって由紀の「タ・ヤ・タン」を採り上げ、昨年の来日時に彼女と共演を果たした彼らの要望と日本サイドの尽力によって実現した。収録曲の大半はアルバム・タイトルにちなみ、69年当時のヒット曲を彼女が日本語で歌ったもの。ピンク・マルティーニの世界での高い人気を証明するように配信も含め世界20カ国での発売されている。
 10月17日には、ロンドンの名門ホール、ロイヤル・アルバート・ホールで5千人の観客を相手にピンク・マルティーニとの共演コンサートに出演。代表曲「夜明けのスキャット」や「ブルー・ライト・ヨコハマ」など日本語楽曲の数々を披露し、聴衆からスタンディングオベーションを受けた。さらに、11月2日付のiTunesジャズ・チャート及びカナダiTunesチャート・ワールドミュージック部門で1位を獲得。他国でのチャートも上昇しており、これは日本語のポップスとしては異例の事態だ。その話題の中、来月にはアメリカでも共演コンサートが行われる。
 1969年は由紀が「夜明けのスキャット」で日本デビューした年。今から42年前に、すでに海外のポップスの影響を消化した優れた楽曲が日本でも数多く生まれていたこと、そしてそれらが懐かしさを売りにしなくても現代の海外の聴衆にも通用することを、彼女は見事に証明しようとしている。由紀の歌声から漂う情感は、海外向けに過剰に和風を押し出す不自然さもなく、ありのままの日本人や日本文化の魅力を伝えることを可能にした。その成功は、多様な局面で自信を失いつつある日本人に、大きな励ましを与えるはずだ。


===================================


まあ
主観も入ってるから
新聞記事としてはボツだな、たぶん。


なお、
この成功のニュースの真実は
こちらに掲載されている
佐藤剛さんのインタビューをお読みいただくのが
一番いいかと思います。