mrbq

なにかあり/とくになし

大都会イヤホン交響楽

マイメン大関泰幸監督が
はじめて主宰するライヴ・イベント「Mr. Anymore Vol.1」に向かうため
渋谷駅から銀座線に乗った。


YOUR SONG IS GOODのギタリスト、モーリスが
本名の吉澤成友名義ではじめて披露するソロ・ギターや
ceroの高城晶平ソロ、
COMEBACK MY DAUGHTERSの高本和英ソロといった顔ぶれの
フル・アコースティックなんだけど
なんだか胸騒ぎのある感じのショーケース。


さっき買ったばかりの
赤いイヤホンを耳に突っ込む。


今年
いったい何個
イヤホン/ヘッドホン買ったかなと思うと
われながらつくづくあきれる。


耳の穴にあわせたクッションを片耳だけ紛失したり、
耳との相性が合わず痛くなったり、
スイスの空港でかっこつけて買ったゼンハイザーのイヤホンが
まったく日本人の耳に合わないサイズだったり。


結局
今さっき980円という
今年最安値で買ったイヤホンが
一番しっくりくるなんて
皮肉としか言いようがない。


表参道駅
乗り換えのお客さんがどやどやと乗ってきたのを合図に
「Get back, SUB!」のつづきを開いて
すこしだけiPhoneのヴォリュームをあげた。


いくつか駅を過ぎたころかな。


隣に座った学生さんが
自分の正面に立っている友人と
身振り手振りを交えて話をしている。


横目でちらちらと見ていたら
その腕の動きに
拍がついているように思えてきた。


くるくる、くるくる、ぱっぱっぱっ。
くるくる、くるくる、ぱっぱっぱっ。


しかもその拍が
今ぼくが聴いている音楽と
妙にシンクロしているのだ。


くるくる、くるくる、ぱっぱっぱっ。
くるくる、くるくる、ぱっぱっぱっ。
ブレイクに
彼らは口角をくくっとあげて
えへへと笑顔を見せる。
そのタイミングがまた、ばっちりじゃないか。


何を話しているのかは聞こえないけど
そのダンスみたいな会話の調子が気になって
本に集中出来ない。


思い切って目を上げると
つり革につかまったコート姿のサラリーマンや
これから連れ立って飲みに行くOLたちが
おなじリズムで揺れていた。


がたごとがたごと。
ゆらゆらゆらゆら。


くるくる、くるくる、ぱっぱっぱっ。
くるくる、くるくる、ぱっぱっぱっ。
えへへ。
くるくる、くるくる、ぱっぱっぱっ。
くるくる、くるくる、ぱっぱっぱっ。
えへへ。
がたごとがたごと。
ゆらゆらゆらゆら。


どこかの駅に着いて
ドアが開いたら
ほどよく酔っぱらったおじさんが
からだをうねらせながら
人をかきわけて乗り込んできた。


その
うい〜、とも、ふい〜、ともつかない
上気した身のくねらせかたには
ちょっと音をひずませたギターソロみたいな感じがある。


くるくる、くるくる、ぱっぱっぱっ。
くるくる、くるくる、ぱっぱっぱっ。
えへへ。
くるくる、くるくる、ぱっぱっぱっ。
くるくる、くるくる、ぱっぱっぱっ。
えへへ。
がたごとがたごと。
ゆらゆらゆらゆら。
うい〜、うい〜、うい〜。
がたごとがたごと。
ゆらゆらゆらゆら。


乗客たちは
軽いステップを踏んで
くるっと手拍子。


目の前の不思議な光景に信じられず
ぼくは目をぱちくりぱちくり。
いつの間にか
そのぱちくりですら
ぼくの頭のなかでは
16ビートで刻むスネアの音になっていた。


いったいこれは現実だろうか。
それともなんかの夢だろうか。


そのときだった。
前に立っていた眼鏡の女性が
ぼくのイヤホンを引っこ抜いて
こわい顔で耳打ちをした。


「音、もれてますよ」


わあ、すいません!


そう言ってあたふたと謝ろうとした瞬間
ぐぐーっと地下鉄が停止したので
ぼくはあわてて電車を降りた。


そして気がついたのだ。


ひと駅、乗り過ごしたよ。