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なにかあり/とくになし

三匹の猫と一匹のドラマー その1

この家には
三匹の猫と一匹のドラマーがいる。
ドラマーは旅の多いバンドに長くいて
家を留守にすることが多かった。
わたしが生まれて
この家にくるずっと前から
ドラマーはその仕事を続けていた。
19歳のときから
そのバンド以外で仕事をしたことはない。
そのバンドとその音楽以外の
だれのためにも奉仕してこなかった。
それしか知らずに生きてきた彼は
もうじゅうぶんなおとななのに
いまだに子どものような目をしていた。
家に帰ってくると
どこからか買ってきたレコードをかけて
一晩中「わー」とか「うーん」とか言っている。
お酒もよく飲む。
煙草は以前は家のなかでも吸っていたが
最近は表に出て吸っている。
ところで
わたしはとても太っている。
彼が家を留守にするときに
わたしのことが心配でエサを山盛りにしていくし
わたしがほかの2匹のぶんまで食べちゃうからだ。
でもそれはわたしが猫だからで
わたしが分別がないせいじゃない。