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なにかあり/とくになし

三匹の猫と一匹のドラマー その10

ある晩
ドラマーと日本人が例のごとくレコードをとっかえひっかえ聴きながら
いい気分で酔っぱらっていたときだった。
ドラマーがトイレに立ったすきに
入口のドアがバタンと開く音がした。
こんな夜中にだれだよとは思わない。
ドラマーの友人には
昼夜は関係ない人種がすくなくなかったから。
だが引きつづいて
そのあとに大きなどなり声が聞こえてきたので
日本人はすっかりびびってしまった。
さっきまでわたしたちと一緒にいたメグも
いちもくさんにどこかへ隠れてしまった。
よく聞くと
その声は怒っているのではなく
ドラマーに呼びかけているようだった。
「おーい、あがるぞー」
ドラマーはおおきいほうの用を足しているのか
まだトイレから出てこない。
やがてどかどかと足音がして
男が家のなかに入ってきた。
そして日本人のいる部屋にやって来て
ひとにらみ。
「おまえ、だれだ?」
彼は宇宙人につかまった少女みたいに
心底ちぢみあがっていた。
わたしが人間ならきっと
「ケケケ」と笑っていたね。