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なにかあり/とくになし

三匹の猫と一匹のドラマー その13

その晩
ふたりは何枚もレコードを聴いて
それからドラマーが録り溜めていたDVDで
60年代のビートバンドやポップシンガーの珍しい映像に見とれたり
くだらない映像を見てゲラゲラ笑ったりした。
ふたりともいい加減酔っていた。
今日はこの部屋にわたし以外にもマイペース猫のフェデラルがいる。
日本人が不意にドラマーに訊ねた。
「ねえ、NRBQで一番好きな曲は何?」
ドラマーはそれほど迷うふうでもなく答えた。
「フィール・ユー・アラウンド・ミーだな」
「それって今日の一曲? それともオールタイム?」
「わかんないな。でも、あの曲は大好きさ」
「おれもだよ」
フェデラルはまた気まぐれに部屋から出て行った。
しばらく黙って白黒の画面で跳ね回るバンドを見ていた日本人は
ドラマーに言った。
「またドラム叩きなよ」
ドラマーはしばらく何も答えなかった。
そのうち奥の部屋で猫同士がうなりあう声が聞こえた。
「また、メグとフェデラルだ!」
ふたりはあわてて部屋から出て行った。
ケンカを仲裁すると
ふたりは何事もなかったように
DVDを見続けていた。