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なにかあり/とくになし

ア・スマイル・アンド・ア・リボン その5

楽屋から出てきて席に着こうとしたとき、
見かけた顔が話かけてきた。


マイケル・シェリーだ。


2001年にマーシャル・クレンショーとの来日公演を
ぼくが手伝って以来の仲。


当時、彼は
ソロとしても良い感じのアルバムを出して売り出していたけど、
ぼくは彼がティーンエイジ・ファンクラブ
フランシス(ノーマンと勘違いしてました! 訂正します)とやったデュオ、
チーキー・モンキーのアルバムが好きだった。


現在もミュージシャンとして作品をつくり続けている彼だが、
ニューヨーク・エリアでの現在の知名度
ニュージャージーのFM局WFMUの専属DJとしてだろう。
毎年秋にNYで開催されるWFMU主宰のレコード・フェアで、
必ず年に一度は再会する。


「そう言えば去年の秋、トムのことを話したよね」


そうだった。
WFMUの会場で30分ほど立ち話をしたとき
話題の中心はトムのことだった。


あの日
表は季節外れの雪だった。


まだその時点ではトムは入院していなかったけれど、
表立ったニュースがないことに
ファンがなんとなく気を揉んでいたのは確かだった。


いけねえ、いけねえ。
またしんみりしちまう。


ところでマイケルは
ここしばらくのNRBQには点が辛いということも
ぼくは知っていた。
それでも近くでライヴがあれば顔を出す。
彼はそういう辛抱強いタイプ(粘着質とも言う)のファン。


でも今日は
ちゃんとファースト・セットから通しで見てるのだという。


「最近のQはどうなの?」
「いいね。バンドのアンサンブルがどんどん固まってきてる」


お、意外に前向きな答え。


「特にスコット。
 彼ほどすごいギタリストは若手ではなかなかいないよ。
 ジャズもカントリーも簡単に弾いてみせて、
 テリーのやりたいことがわかってる」
「だから、こうして見にきてるってわけだ」
「そうだね。
 スコットは昔のアルにも匹敵するよ」


そこまで話したところで客電が落ちた。


「じゃ、またあとで」


ぼくらはそれぞれの席に戻った。
MCがバンドを紹介し、
足早にメンバーが舞台に駆け上がっていった。
なつかしい匂いのする
駆け込み方だ。(つづく)