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なにかあり/とくになし

ア・スマイル・アンド・ア・リボン その4

テリーとぼくの話がしんみりとしかけたとき
楽屋にだれかが入ってきた。


本当なら
ぼくが一番会いたかったひと
ジェイク・ジェイコブスだった。


「よっこらしょ」と日本語で言ったわけではないが
すこしくたびれた様子で
ジェイクはぼくたちの近くに腰掛けた。


確か今70歳くらいのはず。
12年前に日本に来たときも
ずいぶんお年寄りに見えたけど
あのころはまだ50代だったんだなあ。


ジェイクが来たところで
テリーも話を打ち切ったので
ぼくはあらためてジェイクに自己紹介をした。


「実は12年前にあなたにインタビューしているんですよ」
「そうなの?
 わたしはもう歳だから、そんな昔のことは覚えてないなあ」
「そのときに新作をつくっているというお話だったので
 出来上がったらこの取材を記事にしますと約束したんです。
 だからそれから12年待ちました」
「そうだったのか、それはごめんよ(笑)
 それにしても、あのときの日本は楽しかったな」
「新作に入ってる曲も、いくつかやっていましたよね。
 キンクスについての曲とか」
「そうだったね。
 実は、日本でのコンサートで
 ひとつだけ後悔していることがあるんだ」
「なんですか?」
「あのときわたしは弾き語り用に
 エレクトリック・ギターを選択してしまった。
 あれは絶対にアコースティックでやるべきだったよ。
 今でも反省してる」


12年も前の日本公演のことを
今もそんなふうに後悔してるなんて。
ジェイクの意外と“気にしい”な一面と
あのときのパフォーマンスを
この才人にとっては忘れ難い晴れ舞台として覚えているという事実の両方に
ぼくはすっかり感じ入ってしまった。


「日本のひとたちはみんなやさしかった」


そうジェイクが言ったとき
さらに楽屋にスコット・リゴンが戻ってきて
彼も2年前に日本に行ったときの話をしはじめ、
そこから話題が別の方向に転んでいったので
ぼくもそろそろ楽屋を出ることにした。


セカンド・セットの準備が
はじまるんだ。(つづく)