mrbq

なにかあり/とくになし

ア・スマイル・アンド・ア・リボン その11

終演後、
テリーにあいさつをして帰ろうと待っていたら
先にジェイクが出てきたので話しかけた。
「またインタビュー出来たらいいんですが」と。


「今夜はわたしはもう疲れてしまった。
 明日も来るのかい?
 またそのときにでも話をしようよ。
 今は12年前とは違う。
 インターネットもある時代さ」


ジェイクは目をしばたかせながら
ぼくの申し出に対して提案をしてくれた。


新作のCDを
友人のおみやげにしたいんですと言ったら
ちいさなカバンからストックを出してくれた。
そのあいだにも
いくつか質問。


「去年亡くなったバンキー(バンキー&ジェイク)の声が新作で聴けて
 うれしかったです」
「ありがとう。
 彼女の具合がわるくなる直前にレコーディングできてよかった。
 あの日はふたりでいろんな話をしたよ。
 ジョイントもたくさん吸った(笑)」
「ジャケットの中やブックレットにある絵も
 全部あなたが描いたんですよね?
 すごく素敵です」
「ありがとう」
「絵がたくさん飾ってある部屋での写真で
 一枚だけレコードで
 何故かローラ・ニーロの「ゴナ・テイク・ア・ミラクル」が
 まぎれこんでますね」


ぼくの指摘に
ジェイクは真面目な顔をして答えた。


「あれが大事なんだ。
 あのレコードはわたしにとってなくてはならないもの。
 わたしはローラを愛してる。
 ロックンロール・ホール・オブ・フェイムに選ばれるのは
 まったく遅すぎたくらいだ。
 (今年、ようやく彼女の表彰が決まった)
 それに
 あんなもの
 どうだっていい。
 彼女の魂はこの街にある」


ええ、
きっと
石を投げれば当たるくらいの
すごくちかい道ばたにね。


と切り返そうと思ったが
そんなにうまいことが言えるほどには
ぼくは人間が出来てない。


「また明日」と
とりあえずジェイクを見送った。


あれ?
目の前にいるふたり連れは
もしかして?(つづく)