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なにかあり/とくになし

ア・スマイル・アンド・ア・リボン その10

「ア・スマイル・アンド・ア・リボン」を歌い終えても
テリーは何も言わずに
笑っているだけだった。


なんか言うのは野暮……だろ?


みたいな笑み。


そして
気分を変えるかのように
トロンボーンでこのツアーに参加しているアート・バロンが
デューク・エリントンの晩年に
ビッグバンドのメンバーだったことに触れた。


「おい、
 本当にエリントンのバンドにいたのかよ?」
「本当だとも」
「じゃあこの曲吹けるのかな?」


そう言って
テリーが弾いたイントロは
「ロッキン・イン・リズム」。


NRBQが昔からやっている
エリントンのカヴァー。


この曲のゴキゲンなグルーヴを合図に
ライヴは終盤に突入。


「グリーン・ライト」
「12バー・ブルース」
「ライディン・イン・マイ・カー」
そして
「ザッツ・ニート、ザッツ・ナイス」。


アンコールまで一気に
ロックンロール・パーティー仕様を貫いて
ふたたび駆け足でステージを去っていった。


終わってみれば
いつも通りの
でもなにかが新しいNRBQ


前半は
割としっとりとした雰囲気もあったから
そのうち客席の気分が
ぬぐいようのないかなしみの色に染まってしまうのではないかと危惧もした。


でもそうならなかったのは
テリーが
自分たちがNRBQを名乗る責任を
まっとうすることを考えているからだろう。


唯一、
「ザッツ・ニート、ザッツ・ナイス」で
新しいドラマー、コンラッド
ドラム・ソロを叩くはずのブレイクは
この日はカットされていた。


でも
今日はその演出でよかった。


きっと
トムのことを
みんなが思い出しすぎてしまうから。(つづく)