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なにかあり/とくになし

Jim’s Thing

日記の日付は2月8日だが
書いている本当の今日は3月11日、正午前。


時間軸の交差をおゆるしください。


友人の誕生日に毎年あげているCD-Rをつくるために
レコード部屋でいろいろ探していて
ひさびさに拾い上げた一枚。


それは
レオン・ラッセル&フレンズ「セッションズ」というレコード。


公式にはそういうタイトルのアルバムは存在しない。
いわゆるブートレッグだ。


たしか
70年代頭のレオンのツアーのための
スタジオ・リハーサルを収録したもので
内容も音質も素晴らしいということもあり
古くから出回っているものだと聞く。


そうだ。
あの曲を聴こう。


聴きたくなったのは
「ジムズ・シング(Jim's Thing)」。


サックスでツアーに参加していたジム・ホーンをメインに据えた
どこかで聴いた覚えのあるメロディのインスト曲。
このタイトルは
ブートレッグ用につけられた適当なものだろう。


ぼくは
この曲を
10年近く前にはじめて聴いた。


季節も正確な場所も忘れてしまったが
昼間で雨の日だったことは覚えている。


山手線の東側にある駅から少し歩いた場所にある
コンクリむきだしのビルをアトリエみたいに使っているスペースで
DJをしていた。


展覧会で行われるライヴの合間にと
頼まれたDJだったと記憶する。


どういういきさつだったのか
その場の流れで
居合わせたMと
バック・トゥ・バック(リレーDJ)をすることになった。


そのときに
Mが爆音でかけて
ぼくの度肝を抜いたのが
「ジムズ・シング」だったのだ。


笑いも涙も一緒に
エモーショナルにうねらせながら
天国と地獄の両方に突入してゆくその曲に
ぼくの予定は完全に狂わされ、
そこからふたりのDJは
爆音ハイテンション&ハイスパート合戦になっていった。
お客さんたちも
つられて踊りだしてしまった。


そして
ダムドの「ファン・クラブ」をかけたあたりで
ハタと気がついた。


このイベント、
全然こんなノリじゃない、
もっとアートで静かで
淡々としたひとたちのためのものだったのだ。


あちゃちゃー、
ライヴはとことんアコースティックな感じですって。
これじゃまったく台無しだ。
露払いとしては大失敗だ。


思わず顔を見合わせたMは
ぼくとおなじ顔をしていた。


苦笑いのようにも見えるけれど
その目には本音がばっちり映し出されている。


「でも、最高じゃないですか」


今まで
人前でレコードをかけるDJは何度もしてきたけれど
そのなかでも
あの日の「ジムズ・シング」から起こったことは
ぼくの記憶に今も強く残っている。


Mは
大病で入院をして
今は退院して回復に努めているところだ。


Mの健康回復としあわせを心から願う。
またああやって笑い合えたら最高だと思う。
友人にあげるCD-Rにもこの曲をいれよう。
そして
ぼくにもこの曲が今日(3/11)は必要だと思う。


ここでそれを聴かせることは出来ないが
「ジムズ・シング」が何をもとにした曲かは教えることが出来る。


それは、この曲


「ジムズ・シング」には
さらに「ホワッツ・ゴーイン・オン」の成分や
フォスターの「峠の我が家」の成分や
ぼくらそれぞれが抱える
帰れない過去への思いをあぶりだす
キラキラした何やかやが
いっぱい詰まっている。


ハッと思った。
「ジムズ・シング」は
片想いの「踊る理由」にも似てる。


だからだったのかな、
こんなに心を揺さぶられるのは。


爆音で
「ジムズ・シング」と
できれば
そこからつないで「踊る理由」を聴いて
今日(3/11)は、すこしの間だけだまりたい。