mrbq

なにかあり/とくになし

表現(Hyogen)の夜

四谷三丁目の駅から地上に出て
丸正の前をとおり
住宅地に入る角を折れ
思いもかけない路地にはいると
その突き当たりの暗がりにぼっと灯りが見える。


そこに
喫茶茶会記はあった。


今日この店で
表現(Hyogen)の
特別なライヴが行なわれるときき
やってきてみた。


新作「琥珀の島」のプレビュー演奏会、というのがそれ。


彼らにとってサード・アルバムとなる「琥珀の島」。
実はまだできていない。


表現のHPには
こう書いてあった。


===================================


表現(Hyogen)の次回作として10月に制作を予定しているアルバムの内容を、実際のレコーディングに移る前にパフォーマンスとして発表し、フィードバックを得ることを旨とした演奏会です。


===================================


そして、限定25名。完全生音、とも。


今年の4月に阿佐ヶ谷のroji
野田薫あだち麗三郎クァルテッットのライヴがあった夜、
終演後にそのまま置いてあった楽器を
だれかが拾い上げるようにしてセッションらしきものがはじまろうとしていたのだが、
そこに表現の佐藤公哉古川麦のふたりが加わった瞬間
のんびりしていたアフターアワーズな空気が
しゅっと異化したのを今でもはっきり覚えている。


もっとも
そのときぼくが見たのは
表現の半分。


本当の表現とは
どれほどのものなのか。
それを見てみたいという気持ちの苗木が
ぼくのなかに植え付けられた。


だから
日曜の夜に
この路地を曲がったというわけ。


演奏会は
観客がのみこむ固唾すら反響しそうな
緊張感あふれるムードで進行したが、
では彼らの音楽が極度に堅苦しいものかというと
それは別の話。


権藤真由、園田空也を加えた4人編成の表現は
ヨーロッパの古いカフェ・ミュージックのようでもあり
戦前の酒場でうたうボヘミアンの集会のようでもあり
無人島に住むスラップ・ハッピーのようでもあった。


だが
その郷愁は
手垢のついたなつかしさに向かわずに
この世とどこかの境目にある
未知なものに触れたいという願いに向かってる。


無国籍な音を
架空なままもてあそぶたぐいの
一昔前なら通用したような音の遊びとは明らかに違う。


帰る場所がどこかにあるはずだと真剣に思う気持ちが
得体の知れないさびしさとなって
きく者を揺らすのだ。


そんな不思議で不屈の意志を持つ若者たちが
都会のすきまで奏でる稀有なバラッドに
ぼくの心は急に風の強くなった日の木みたいに
ざわついたのだった。


瀬戸内の島でのレコーディングをおこなうという
アルバム「琥珀の島」の完成を
待ってます。



【追記】
一夜明けて
ニュースで見た日馬富士
インタビューに答えていった
「夢にも見たことがない夢」というひとこと。


まるで
昨夜みた表現(Hyogen)みたいな表現じゃないか。
そう思った。