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なにかあり/とくになし

シティ・ポップの壊し方 失敗しない生き方インタビュー その3

第三回です。


目標を持つってそんなに大事ですか?
気があってないとバンドやっちゃダメですか?


そんなことを逆に問われてるような気もした第三回。


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──4曲入りのデモCD-Rを『遊星都市』というタイトルにしたのはなぜ?


天野 『遊星都市』は、出す前から「月と南極」とか「クックブック」とか、入れる曲がシティ・ポップぽいなとは思ってたんですよ。で、そのシティ・ポップから「都市」という言葉を出してみたんです。でも自分たちが住んでる街は都市でもない、どっちかというと“衛星都市”で。でもタイトルが「衛星都市」じゃかっこわるい。だけど、“衛星”の“星”っていうのはいいなと思ったんです。だから、僕らの、中心部から離れてる感じを”衛星”から“遊星”に転換して表現してみた感じです。あとになって気づいたんですけど、小坂忠さんの『ほうろう』に「流星都市」って曲があるんですよね。



──最初からわざとひっかけたんだと思ってた。


天野 でも、タイトルに「都市」ってつけたおかげで、出したあとから、シティ・ポップって呼ばれることが多くなって。つけなきゃよかったかなとも思いましたけどね。でも、タイトルとしてのかっこよさとか、きれいさとかはいいものだし、響きとして残る感じになったのはよかったかな。


──星の群れから離脱して自由に飛び回るようなイメージが“遊星”という言葉にはあるし、〈失敗〉にはすごく合ったタイトルだと思う。なによりライヴを見れば、みんな、この人たちはシティ・ポップに収まるんじゃなくて、そこから逸脱していくんだとわかると思うから。


天野 「月と南極」のコズミックな感じも、タイトルとつながってるかなと。


今井 まあ、あのCD-Rは、よくまとまってるんじゃないですか?


──しかも、『遊星都市』を最初にブックレット付きで出してるんだよね。よくそんな手間をかけて冊子を作ったよね。蛭田さんの漫画も載ってて。


千葉 よく言われます(笑)


天野 「わざわざ作ってこれか?」ってね(笑)


蛭田 なんでこれ作ったの?


今井 わかんね(笑)


千葉 菊池さんにも言われました。「頼まれてもないのに本作ったんだね」って(笑)


今井 ありがた迷惑だよねえ(笑)


千葉 100冊以上作っちゃったし。


蛭田 「なんでこんなにいっぱい作ったの?」って言ってたよね(笑)


天野 「これ、どうしよう?」みたいな感じだった。



──今となっては、もうそれも完売した。僕は「冊子のがあるんなら絶対そっち買うでしょ、急がないと!」みたいな感じだったけど(笑)


千葉 でも、結局「本だと売るのも大変だから、CDだけのも作ろう」ってことになったんです。それで、CD-Rだけのヴァージョンも別に100枚作って、おんがくのじかん以外にもいろんなお店に置いてみようって。mona recordsとか国分寺珍屋に今井が営業しに行ってくれて。


今井 俺、monaに、なんで持っていったんだっけ?


蛭田 「顔見知りだから」って言ってたよ。


今井 あ、そうか。アーティストのサポートでmonaには何度かでてたんで、店長の行さんとは面識があったんだ。持っていったときに、「来たか」って言われましたね(笑)。


──「来たか」って(笑)。行さん、待ってたんだ。


今井 その時点で、Soundcloudにあげた「月と南極」がTwitterでパッと広まってたし。「来ると思ってた。じゃあ置くよ」って言われたんです。こういうとかっこいい感じですけど(笑)。あとはJET SETと珍屋に行って。


天野 ココナッツディスクは、Ano(t)raksの小笠原さんが「月と南極」を聞いてくれて、話をつなげてくれたんだよ。


今井 そこからは、あれよあれよと売れていって、500枚完売。もう手元にもないんです。


──もう『遊星都市』は作らない?


千葉 もういいんじゃないかなと。


──じつはアルバムを某社から出す話が進んでるんだよね?


千葉 最近もアルバム担当のディレクターさんからいろいろなプレッシャーがかかっていて(笑)


今井 結構、本気出してきてるよね。


千葉 〈失敗〉って最初は、音楽でなにかおもしろいことをやりたいと思ってはじめたバンドだったんですよ。でも、なんかこう、遊びというか、軽い気持ちでやってたことを、菊池さんからアドバイスをもらって『遊星都市』にして出したら反響があって。ぜんぶで500枚くらい売れた。いろんな人に「500枚はなかなか売れないよ」とも言われました。さらに、アルバムを作る話までレーベルからきて、新宿のLoftだとか、渋谷のO-nestとかでもライヴができるようになって。それは、うれしいですよね。


今井 俺はうれしいよ。やっぱり、これまで学んできたことを出せてるというか、大学で先輩の澤部さんとかを見てきて、その後ろについていけてるのかも、という気持ちになります。


──この数ヶ月での状況の変化については、天野くんはどうなの?


天野 まだ『遊星都市』作って半年ですからね。


今井 でも、劇的な変化だよ。うれしい限りですよ。


──“劇的”と思えるくらい変わった?


千葉 だって、〈余分な音楽の夜会〉開催が決まった時点で、僕らのその後の予定って、おんがくのじかんでで一本だけライヴが決まってただけだったんですよ。それが終わったらもう何もない。「俺たち、どうなるんだろう?」って思ってましたもん。


天野 あの1月の企画に来たのも親類とか友だちだったからね。


蛭田 同窓会みたいだった(笑)


天野 あそこから今はだいぶ変わったという感じはあります。


──「月と南極」と『遊星都市』が自分たちが思ったよりずっと遠くの人たちまで届いた。その影響のひとつでもあるけど、蛭田さんがヴォーカルでセンターにいるから、〈失敗〉を相対性理論の後継みたいなたとえでいう人もいるし。


蛭田 なんか言われます。“まるえつ”って言われるたびに笑っちゃうけど(笑)


天野 かわいい声だったら、全部そう言いたくなるんじゃない?


蛭田 「かわいい声出しときゃいいんだろ、ハハハ」みたいなね(笑)


──みんなは、このバンドを続けて行きたいという気持ちはどれくらいある? 将来的には、バンドで食べていく、みたいな理想はあるのかな?


千葉 どうなんですか?


今井 どうなんですか?


天野 どうなんだろうね?


今井 そこまで深く考えてない。


千葉 始まりが友だちとかなじみの顔ぶれだったんで、この関係はたぶん崩れないんですよ。崩れない限り、集まればなにかやるだろうし。ひまだから始めたようなところがあるんで、やめる理由もないし。


今井 “方向性の違い”なんて最初からないようなものなんです。


──バンド以前から続いていた関係だから、逆に趣味や方向性が違おうが、そこは崩れないんだ。


天野 そうですね。腐れ縁です。僕ら、腐ってますよ(笑)


──音楽をめぐって「そこ、そうじゃないでしょ!」みたいな言いあいはある?


千葉 スタジオのなかでは割と僕と今井のやりとりは厳しくなったりしますけど。でも、ライヴやると「あー、楽しかった!」ってなれる(笑)


今井 ライヴの前も「今日のライヴはこうしてやろう」みたいな構えがぜんぜんないですから。「楽屋広いといいねえ」みたいな(笑)


蛭田 「なに食べる?」とか。


今井 ほんと、そんな感じですよ。この前出たO-nestも楽屋広かったよね?


千葉 広かった(笑)


今井 まず最初にお菓子食ってたもんね。


千葉 ケータリングのユンケル飲んでね(笑)


今井 ほんと、そういう感じなんですよ。その日のライヴの作戦もなく、次回のライヴの目標もなく。


天野 ひどいな(笑)


今井 バンドとして目指す音楽が別にないんですよ。


千葉 やりたいことは、おのおのあるんだろうけどね。


天野 モチベーションの面でいうと、僕はライヴをやってもやってもうまくならないので、自分にすごくがっかりしてるんです。音楽は聞いてるほうが楽しいとも思いますし。


今井 まあそれはしかたないよね。


──だけど、作詞家としても、ヴォーカルとしても、天野くんの存在は重要でしょ。天野くんがバンド外にいて作詞だけする人とかブレーンみたいな感じになったら、関係性がまた変わっちゃう。不完全な部分をはらんでいても一緒にいるのがバンドなんだとは思う。


今井 だから、だれかが欠けたらこのバンドは解散ですよね。そのときはやめます。


──やめちゃうんだ。


今井 まあ、僕らはこのまま続いていくでしょうね。


千葉 ふてぶてしい人たちの集まりなので。


今井 友だちいっぱいと遊びに行く、そういう気分ですよね(笑)。たとえば、森は生きているは、僕から見たら、バンドのなかのバンドという感じがするんです。演奏からすごい熱気も感じますし。僕らはバンドというより、友だちなんですよ。根本がバンドという感覚で動いてない。


──こないだO-nestで〈失敗〉のライヴを見たあとで、王舟と話してたら、彼がおもしろいことを言ってた。「失敗しない生き方って“弱いバレー部”ですよね。だけどみんな楽しそうにやってる」って。


天野 弱小野球部みたいな意味ですか?(笑)


今井 ママさんバレー部とか?(笑)


──でも、そこにすごく魅力があるというのは、僕もなんとなくわかる。「弱い」と言い切ったら語弊はあるけど。


今井 いやいやいや、弱いですよ、僕らは。


──「勝つ」ということにあんまり目標を見いだしてない。でも、「一泡吹かせたい」ということは真剣に考えてる感じがする。


天野 それぐらいのことは考えてますね。


今井 印象には残そうとしてますね。


千葉 だってもう、こういうバンド名つけてるしね。


天野 全部変化球みたいな。


今井 僕ら「全員キャラ立ちしてる」ってよく言われるんですよ。


千葉 ほんと、よく言われます。


天野 え? そうかなあ?


今井 言われるよ。「漫画みたい」とか。


千葉 全員どっかの漫画の主人公みたいで、集まっても収拾つかない、みたいな。


天野 毛色はぜんぜん違うよね。


──ライヴを見てわかる部分も大きい。型にはまらないというか、型から崩れ落ちちゃうというか、もしくは、型すらない。


天野 そうですね。


──びっくりするよね、だって、蛭田さんもかったるそうに歌ってたと思ったら、いきなり間奏でトランペットをすごい勢いでぶっ放すし(笑)



蛭田 手持ち無沙汰になることがあるので、「何か持て」って千葉くんに言われたんです。それでトランペットをいきなり持たされて。吹いたこともないのに(笑)


──それであの勢い(笑)。やっぱり、フリー・ミュージックというか、壊れていく感じが好きというのはみんなに共通してあるのかな。


天野 たぶん、それは僕と千葉にあるんですよ。


蛭田 でも私も壊すことだけは好きだよ。


天野 それは壊してるんじゃなくて“壊れてる”んだよ(笑)。でも、確かに蛭田さんは、壊し方は知っているよね。


──おんがくのじかんの菊池さんは、そのへんについては何か言ってくれたりする? おんがくのじかんのTwitterでの〈失敗〉の扱われ方とか、すごく傍目にもおもしろくて。けなしながら褒めるというか育てる、というか、けなすだけ? みたいな(笑)。僕はあれが結構好きなんだけど。


 


天野 最近は、けなししかないよね、嫌われてる(笑)


今井 嫌われてはいないよ。あれは愛情(笑)


千葉 割とあるよ、けなしだけのとき。


今井 でも、おもしろいよ。


千葉 最近、菊池さんに会ってないよね。


今井 俺は先週、柴田聡子さんのライヴ見に行って会ったよ。


天野 今井は気に入られてるからな(笑)


千葉 よくしてくれるじゃん。今井にはコーヒーもなみなみ入れてくれる(笑)


──菊池さんは〈失敗〉に対して、特別な思いはあるんじゃないかな。


今井 実際、菊池さんがいてくれなかったら、こんなことになってない。


天野 菊池さんありきですよ。


──おんがくのじかんに所属しているわけではないけど、あの場所で見る〈失敗〉が僕は好きで。それは北澤夏音さんも似たようなことを言ってた。それってつまり、現代の東京をひとつのローカルとして見たときに、〈失敗〉が発信している空気の重要さだなという気もする。さっきもいってた〈ベッドタウン・ポップ〉感というか。


天野 東京の音楽といっても、これまでは地方から出て来た人が東京でやっている音楽というものも含まれますよね。でもまあ、僕らはずっとこっちのほうに住んでるから。


今井 抑えても出てきてしまうベッドタウン感というのは、ある。


天野 田舎まではいかないけど、中途半端に都会な感じというか。


今井 昼間に新宿行って、夜は楽勝で帰れる感じ。


──大都市と地方都市の、さらにその中間。シャッター商店街というほど街もさびれてないし。


天野 そうですね。「ソフトに死んでいる」みたいな(笑)


──まさに、ゆらゆらな都市(笑)。でも、そういう感覚は失敗しない生き方の音楽にはにじんでるよね。


天野 そういう意味でいうと、僕は、はちみつぱいが羽田から出て来てるという感じも好きなんですよ。


──あの、はちみつぱいの、都会のはずれにいる寄る辺のない若者たちが混ざりあおうとしてる感覚は今でもかなり特殊だよね。混ざらないものを混ぜようとしてるがゆえの危なっかしさがあって、でもそれが何ともいえない魅力で。当時未発表だったライヴ音源を集めたボックス「The Last Tapes はちみつぱいLive Box 1972-1974」をきくと、アルバムよりずっとどろっとしているし、延々とジャムをやってる曲もあったりして、かなり混沌とした感じもあるし。


天野 グレートフル・デッドみたいですよね。


今井 そうだな。


天野 僕はあのボックス、大好きですね。



──音楽として比べると〈失敗〉とはちみつぱいとは違う印象だけど、音楽的には渋くて洒落たことをやろうとしてるはずなのに感性はひどく刹那的で、目標を掲げるわけでもなく、「どうしてもこうなってしまう」という、ある種の“しょうがなさ”が音からにじみでてる感じというのかな。そんな匂いは、なんとなく通じている気がする。


天野 僕らも目標とか、ないですし。


今井 なにもないです。


天野 菊池さんは僕らを「からっぽ」って言ってたけど。


今井 でもからっぽでナンボなんじゃないの?


蛭田 別にみんなだってたいして中味詰まってないじゃない。


今井 僕ら、最初から中味ないんで(笑)


蛭田 いや、周り見てもそうだよ。


天野 ときどき人に言うんですけど、イギリスに昔、ポップ・グループってバンドがいて。あのバンドって、最初はファンクをやりたかったんだけど、演奏がヘタクソすぎてあんなにいびつなかたちになっちゃったんですよ。僕はそのエピソードがすごく好きで、〈失敗〉もそういうふうになったらいいんじゃないかなとは思いますね。


今井 さっきも練習で「ウィー・アー・タイム」やってたけど(笑)


蛭田 あれはかっこいいよね。



──みんな、ポップ・グループは好きなんだ?


千葉 みんな好きですね。たまたまでしょうけど。


蛭田 好き。


今井 『Y』とか結構聞いた。


天野 そうなの? そんな話、はじめて聞いたな(笑)


蛭田 だってみんな音楽の話とかしないもんね。私、人と音楽の話したくないし。


今井 僕もこいつらとは趣味合わないんで、まったく音楽の話はしませんね。


──おもしろいね。「こういう音楽が好きだから一緒にやる」というのとはぜんぜん違う部分で集まって、結果的にはみんなポップ・グループが好きだったという(笑)


天野 趣味が一緒だったら、もっとやりやすいんだけどね。


今井 目標もつけやすいだろうし。


千葉 でも、それだったら、このバンド、やらないかもしれないな。


今井 天野くんが目標として掲げる部分に僕は大反対したりするし、結局、バンドとしての目標を掲げないというのはそういうところですよね。目標を定めても無駄なんです。


天野 曲を書くのは今井くんと千葉くんなんで、おたがいが書いた曲を本人の思惑通りにしないというのが失敗らしさなんだと思うんですよ。今井くんが新曲を書いてきたときも、アルバムの担当の人や菊池さんにライヴで聞いてもらうと「まだデモのままだね」って言われるんですよ。


今井 そうそうそう。


千葉 だから、僕らのことをよく知ってる人たちは、書いた本人が思ったままの曲というのは、まったく望んでないんですよ(笑)。「早く“失敗印”にしなさいよ、まだ“今井印”だよ」って。


──そこはかなり〈失敗〉の〈失敗〉たるゆえんにかかわる話だね。


千葉 今井は、もともとは整ってるような音楽が好きなんだよね。それこそシティ・ポップが大好きだし。


天野 曲もよく練ってあるし。


今井 ここでコードがこう変わって、みたいな複雑なのが好きなんです。


天野 だから、いつもかなり完成品に近いデモを持ってくる。で、それを壊していくのが他のメンバーなんです(笑)


今井 最近はもう「こういうところが壊れていくんだろうな」っていうのは予測できるけどね(笑)。「このコード、天野は弾けねえだろうな」とか思いながらやってるんですけど(笑)。でも、僕もシティ・ポップも好きだったけど、一時期はメルツバウとか結構ノイズも漁ってたんで、壊れていくのがイヤなわけじゃないんです。むしろ「月と南極」みたいに根底はきっちりした音楽を作ろうと思ってできた曲が、最終的には千葉の汚いサックスのブロウで終わる、というようなところへ行き着く、そういうプロセスでいいものができるなら、それでいいかなと今は思ってます。あの曲もそうなってぜんぜんかっこわるくなかったんで。


──なるほどね。


千葉 そこなんですよ。端正に演奏するだけじゃ、そうはならない。


蛭田 そう。


千葉 でも下手なだけだと下手なだけだし。


蛭田 菊池さんもちょっと前に会ったときに言ってた。新曲の「魔法」が「まだ今井くんの曲のままだから、もうちょっと何とかしたほうがいいね」って。


今井 やっぱ、みんなそう思うんだね。だから、今は「どうぞ壊してください」という感じですね。


──バンドって曲のもとになるものを持ち込んでまとめるのが普通なのに、〈失敗〉は逆なんだ?


今井 逆ですね(笑)


蛭田 ばらばらになるんです。


──でも、ばらばらなくせに通じ合ってる。


今井 「こうなんじゃないかな」という部分はわかりますよ。1を言えば6くらいわかる関係なんで。


千葉 バンドより一緒にいた時間が長いんですよ。まあ、こういうバンドも、いいんじゃないですかね。


(第四回に、つづく)



蛭田桃子 失敗しない生き方