白昼の無言劇
石川雅之の「もやしもん」(やはり読み出すとおもしろい)は菌が目に見える特殊能力を持つ男の子が主人公。
話のテーマ上、“発酵食品”がよく話題にあがる。
“発酵”と言えば、ぼくは長年、チーズが苦手だった。
今はピザとかグラタンとか、溶けたり、混ざり合ったり、
何らかのかたちで変形していれば、どうやらオーケーという感じ。
“個体”は今でも苦手である。
ところが、ぼくの二歳下の弟は、小さいころからチーズが大好き。
「トムとジェリー」を見ていても、
ジェリーが穴空きチーズをむしゃむしゃ食べるシーンが一番好きというくらい大好き。
母親に、
「あんた、顔がチーズになるばい」
とよく言われていたぐらいである。
中でも雪印の「6Pチーズ」が大の好物。
あの円形の容器におさまった6個のチーズを、ひとりでつまみ食い。
目を離したスキに、全部たいらげてしまう。
ところが、おとなになって、いろんなひとの話を聞くと、
案外、“6Pチーズ全部食い”の経験者、あるいはその願望を持つ者は多いようだ。
ハイファイで働いているフジセも、その願望者のひとり。
ただ、ヤツは途中で「これ、全部食ったらどうなるの?」と不安になって止めることが多かったという。
ひょっとして、その心理は、あの「6Pチーズ」の容器の構造が“円グラフ”に似てるところから来るものだったりして!
つまり、食べ進めるうちに、残りが少なくなるさまが、具体的に円グラフとして示されるわけだ。
最初はアンケートの多数派だった自分が、
徐々に少数派、どちらでもない、挙げ句には“無回答”になってしまうという恐怖である。
おお怖。
ところで、ああいうアンケートの結果に出てくる“無回答”って層は、実際はなんなんだろう?
“どちらでもない”という選択肢なら、
「どちらでもない」とか「わからない」とか言ったり書いたりしているわけで。
もしや、電話アンケートとかで、
質問者「××××の件について、あなたは賛成ですか? 反対ですか?」
回答者「・・・・・・・・」
質問者「・・・・・・・・(1分経過)。はい。“無回答”と。では、▲▲▲▲については、いかがですか? これも賛成、反対でお答えください」
回答者「・・・・・・・・」
質問者「・・・・・・・・(1分経過)。はい。これも“無回答”と。最後の質問です。■■■■はいかがでしょう?」
回答者「あ、それは賛成です」
質問者「あ、これは好きなんだ! ラッキー!」
……というような、白昼の無言劇がどこかで繰り広げられていたりして。
あるいは、渋谷の街頭で、ひとを呼び止めて、ビルの一室などで行われているモニター調査などでも、
白紙回答をバーン!と叩きつけ、
「これがおれの答えじゃあ!」
と言って、図書券だけはもらって、すたすた退場しているとか。
まあ、そういう積極的な“無回答”がもっとあるのなら、
少しは世の中も面白くなってるのだろうが。
ああ、最初はチーズの話でしたっけね……。