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なにかあり/とくになし

タイ風カレーのこと

昨日書いた喫茶店時代の話で
もうひとつ思い出したことがある。


コーヒーとお茶、
パウンドケーキにプリンが人気の店だったのだが、
パスタやカレーなどの食事メニューも出していた。


各種パスタソースには
代々受け継がれたレシピがあり、
味が安定していたのだが、
どういうわけかカレーソースには
基本的なスパイス調合の割合が記してあるのみで
確固たるレシピが存在していなかった。


つまり、
どのように応用してもよし、と。


仕込みの日に厨房に立つ(経験豊かとは限らない)アルバイトが
カレーらしいカレーを目指して
各種スパイスを調合。


その日にスーパーで特売しているお肉と
実験精神あふれるコックの味覚に頼って作られる
まさに“シェフの気まぐれメニュー”ならぬ
バイトの気まぐれカレー状態。


まあ、それでも
結構おいしく仕上がっていたのだから
それなりに素質のあるバイトが多かったのかもしれない。


ししとうと牛肉を使ったカレーなど
今でも再現してみたい名作もあった。


もっとも、
昔のバイトの中には
半日がかりで完成したカレーを味見して
「うん。これじゃない」とひとこと言い残して
全部流しにぶちまけてしまった豪傑もいたそうだけど。


あるとき、
どういう風の吹き回しか、
たまにはエスニック路線でもと
タイ風のホワイト・カレーが作られることになった。


初めての挑戦ということで
貧乏ヒマだらけで食事をたかりに来ていたぼくや
バイトの先輩KTさんが試食をすることになった。


ぱくぱく。
なかなかいけますよ、これ。


ぼくの隣では
KTさんが神妙な顔をしている。


「いやあ、もっと激烈に辛いかと思ってたら
 そうでもないですねえ。
 名前からし
 吹き飛ばされるくらいの辛さを想像してたもんで」


KTさんは
このカレーのことをずっと
“台風カレー”だと思い込んでいたのだった。


この愛すべき先輩は
その後、古着屋さんに転身し、
今は故郷の山陰に帰り
手広くお店を展開中と聞いている。


最近どうしてるかな。


KTさんとの再会は
まだ山陰には縁がないぼくにとって
あの場所に行ってみたいと思える
大きな理由のひとつなんだ。