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なにかあり/とくになし

できない

先週の帰省中は
米原万里「他諺の空似」(光文社文庫)をずっと読んでいた。


世界各国に存在する
似たようなことわざを題材にした
軽いエッセイのつもりで読み始めると
エライ目に遭う。


冒頭に軽い小咄(ここからすでにドギツイ)。
続いてことわざの例証をつらつらと。
その例の多さ、カバーしている世界のひろさもハンパじゃない。


しかし
きわめつけなのは
各エッセイの後半部を占める政治批判の
容赦のなさだ。


書かれた時代が
2003年から米原さんが亡くなる06年の初めまでなので
ブッシュ政権小泉時代自民党の話が多いのだが
まあその攻撃姿勢の厳しいこと。


これほど的確な言葉を持ったひとが
文章上とは言え
阿呆どもの急所をグサグサッと串刺しにしてゆくのだから
その痛快さたるやない。


もし米原さんがまだ生きていたら
オバマ大統領や日本の現政権を
どう表現しただろうか。


熊本に向かう機内で読んでいて
ぼくがグサッとやられたのは
「光陰矢の如し」についての文章の一節。


フランスに
「若いうちはまだできない
 歳をとるともうできない」
という意味のことわざがあるという。


若いころは経験がないので技量が足りず、
歳を取ると経験は積み重ねたられるが体力も知力もおとろえる。
だから結局どちらも、
やりたいこと
やるべきことをできない。


くはー、なんと無情な。
セラヴィの国のフランス人は
むごいことを言う。


機内サービスのコンソメスープを飲んで
うるおっていたはずの口の中が
この文章だけでからからに乾いてしまった。


ゆらゆら帝国の「できない」が
頭の中で瞬間的に高速リフレイン。


じゃあ、
やるべきときは
ひょっとして今なのか。