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なにかあり/とくになし

鬼蜻蜒と書いて

「おにやんま」と読む。


ヌメロ・グループというシカゴのレーベルが続々と出しているCDが大変だ。


オブスキュアなアナログ蒐集の精神を、
美しく結実させたコンピレーションを
誠実にじっくりとリリースしている。


ローカル・ファンクの7インチ音源集が主なのだが、
ファーン・ジョーンズという
女性カントリー・ゴスペル・シンガーのウルトラ・レア盤を
突如リリースしてきたときにギョッとした。


何故? を問わせる前に音で説得する。
箱に入ったアートワークも洒落っ気を抑えた凛としたものだった。


そのレーベルの今年最重要リリースが、
「Wayfaring Strangers : Ladies From The Canyon」というオムニバス。


勘のいい方はピンときたかもしれないが、
ジョニ・ミッチェルのような“幻の”女性シンガーソングライターを集めたものである。


ほとんどすべてがレリジャス・フォークと分類される、
一般の市場にはまるで出回らない作品。
たいていそういうものは、
よっぽど階段を上がったコレクターしか感心できない内容だったりするのだが、
一曲ずつセレクトすることで、この世のものとは思えない崇高な“品(ひん)”を用意。
この編集にはしてやられた。


可憐で孤独で儚げ。
そのくせ素直。
この実直さは宗教心がものを言っているからだろう。
そして、その真っ直ぐな祈りは、外界への鋭いトゲでもある。


箱から取り出すと、
ブックレットにはトンボと小さな花をあしらったキルティングがデザインされている。


そのとき思った。
邦題、付けさせてくれるなら「鬼蜻蜒:谷に消えた女たち」だなー、と。


ツマが笑いながら「それ怖すぎだよー」と言った。