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夢と時間の境目を触れる、たたく/角銅真実インタビュー その4

お待たせしました、角銅真実インタビュー、第四回にしていよいよ最終回!


7月にリリースされた初のソロ・アルバム『時間の上を夢が飛んでいる』についての話、そしてアルバムにコメントを寄せていた人たちについての興味深いエピソードなど。


あらためてアルバムのことを書くよりも、彼女の発言を読んでもらったほうがいろいろと感じ取れると思うけど、ひとつだけ。


このインタビューのきっかけのひとつになったメールのやりとりがある。ぼくは角銅さんのアルバムが、「ラサーン」が名前につくようになってからのローランド・カークを思い出す部分があると書いた。音楽のタイプは違うが、夢との境目をトントンとさまざまな音で触れたり叩いたりしながら自分で探す感じが通じてると思ったのだ。


角銅さんからは、それは自分が打楽器をやっている感じともとても通じているのでうれしいという内容の返事をもらった。


そういう意識の音楽家が身近にいるということが、ぼくもうれしかった。このインタビューのタイトルも、そこからきている。


では、第四回をどうぞ。


第一回は、こちら
第二回は、こちら
第三回は、こちら


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夢と時間の境目を触れる、たたく/角銅真実インタビュー その4






──初のソロ・アルバム『時間の上を夢が飛んでいる』は、ceroにサポートで参加する前から作っていたんですよね? そもそものきっかけは?


角銅 きっかけ、ですか……。曲にならないような断片をずっと作ってたのが貯まっていたというのはあります。一回ちゃんとまとめないといけないと思っていました。既存の曲を演奏したりサポートとしていろんなところに呼ばれて楽器を演奏したりするのも楽しいけど、これ(ソロを作ること)が自分にとって大事なことだと思っていました。あ、でもきっかけといえばですけど、アルバムを作り始めたころから、全部自分の曲でソロのライヴをするようになったんです。そしたら、台湾でもソロでライヴができるって声をかけてもらって、遊びついでに行ったら、そこにBasic Functionレーベルの大城(真)さんがレジデンス・アーティストとしていらしていたんです。わたしはそのときがソロでのライヴは2回目くらいでしたけど、それを聴いてくれた大城さんが「いいですね。アルバムとか作らないんですか? 音源作って持ち込んでくれたらアルバムにしますよ」って言ってくれたんです。ちょうどそのとき家のPCのGarageBandで録音した3、4曲入りの気まぐれ月刊CD-Rを作って身の回りの人に聴いてもらったりしていたんですけど、「もうちょっと、ちゃんとアルバムを作ろう」と思って「作りたいです。よろしくお願いします」って返事しました。結局、アルバムは全部大城さんに録音してもらうことになって。それがやり始めです。


──レコーディングはどんな感じでやっていたんですか?


角銅 基本的には、ソロでの録音でしたけど、たまに「あの人がそこにいたらおもしろいな」と思った部分は、その人に「曲の部屋」に遊びに来てもらうという感じで自分以外のミュージシャンに参加してもらいました。部屋に入ってくれるその人自体をひとつの楽器だというふうに考えて扱っていましたね。部屋の中に、その人が遊んだら楽しそうなや遊具や道順的な伏線を用意しておいて、それについてできるだけ何も言わず、そこにそっとその人を入れて眺めるみたいな感じです。ギターで麦さん入ってる曲もありますけど、基本的にはギターもわたしが弾いてます。あとは、家で一回自分で弾いたフレーズをあとで麦さんに弾いてもらったり。


──一番古い曲はどれですか?


角銅 「February 1」とか「フォーメンテラ島のサウンドスケープ」とかですね。「フォーメンテラ島」が一番古いかな。本当はめちゃ長い曲なんです。文角 -BUNKAKU-という打楽器のデュオユニットのために作った曲で、ふたりで一回録った音をテープで加工して。


──実験的というか、インスタレーション的な曲ですよね。


角銅 そうですね。「Midnight car race」も、以前展示をしたオルゴールのインスタレーション作品があるんですが、そのままですもんね。自作のオルゴールを鳴らして終わりまで録音してるだけだから。


──実験的といえば、ちょっと笑い話していいですか。最初音源をiPhoneに取り込んだときに、ぼく、設定を間違えて、一曲がずっとリピートされるようになってたんですよ。だから一曲目の「Kiss」がずっと続くようになってて(笑)


角銅 (爆笑)


──本当は17秒の短い曲なのが、角銅さんのキスの音が延々と続いて「これはえらいものを作ったんだな……」と別の意味で戦慄してしまって(笑)


角銅 それを聴き続けたなんてさすがですね。めっちゃいい話です。そういうのレコードで作りたいです(笑)


──ようやく気がついて、2曲目の「Ne Tiha Tiha」に進んで、今度は別の意味でそのポップさにハッとしたんですけどね(笑)。「刺繍の朝」や「窓から見える」あたりのメロディ・センスもおもしろいんですよ。コードとか構成の決まりごとはないんだけど、すごくメロディアスだし。きもちよいんだけどきもちわるい、ってタイプの不思議な美しさがある。それであらためて通じるものがあるかもと思ったのが、ローランド・カーク。彼は盲目で、口に三本サックスを加えて吹いたりしてたから「大道芸」とか「グロテスク・ジャズ」とか言われてたこともあるんですよ。70年代頭くらいの話だったかな、夢のなかで「ラサーン」って呼びかける声を聞いて「あ、おれはラサーンって名前なんだ」と知覚した。そして、それからラサーン・ローランド・カークを名乗り始めて、作るアルバムも夢の世界と接してるような不思議な作品が増えていくんですよ。その時期の作品を思い出したんです。


角銅 へえー。




──カークにも、ベルや鳴り物をずっと鳴らしてるような、まさに「Midnight car race」みたいな曲もあるし。


角銅 へえ、ローランド・カーク。ちゃんと聴いてみたいです。“カク”同士ですしね(笑)。わたしはやっぱり文化的な流れとか、人間の営みの中の音楽ももちろん愛しているけれど、それよりも、もっと単純に物から音が出るという現象そのものがうれしいんですよ。そこが結果的にわたしが音楽をやってる理由だし、一番どうしても惹きつけられるところだから。


──奇想と美しさの共存って意味では、ムーンドッグっぽさも感じましたけど。


角銅 ムーンドッグもすごく好きです。




──高城くんもアルバム用の推薦コメントでムーンドッグを引き合いに出してましたよね。ムーンドッグも盲目なんですよ。彼らは普通の生活では目が見えないわけなんですけど、夢のなかではなにかが見えているんだと思うんです。それを表現したくて音楽にしてるんじゃないかと思えるようなところがある。夢を使って現実に触るというか、拡張してゆくというか。角銅さんの音楽ができていくプロセスも似てる気がして。


角銅 なんか『時間の上に夢が飛んでいる』というアルバム・タイトルも、わたしのなかでは「それが音楽だ」というイメージなんですよ、ある側面での。曲としての「時間の上に夢が飛んでいる」もタイトルに呼ばれたというか、「いい言葉だな」と思って、ずっとそのことを考えてて、気がついたらポコって出てきました。


──ちなみに曲のタイトルはどうやってつけてるんですか?


角銅 えー? 「Kiss」なんかはそのままですよ。「February 1」も2月1日に作ったからだし……。「フォーメンテラ島」だけは、他とはつけ方が違ってますね。わたし、一時期プログレのバンドで歌ってたって言いましたけど、プログレを聴くのも好きだった時期があるんです。キング・クリムゾンが好きでした。


──あ、70年代の曲に「フォーメンテラ・レディ」ってありますね。


角銅 そう、あの曲が入ってる『アイランズ』ってアルバムが一番好きなんです。曲を聴いて「フォーメンテラ島ってどこやろ?」って思ったし、その歌のなかにあるストーリーを想像したりしてました。



 King Crimson / Islands


──そうなんですか。クリムゾンからの発想だったとは。


角銅 あの曲が記憶にあったのと、自分がちょっと気になってる行ったことのない場所、写真でちょっと見たことあるくらいの場所のサウンドスケープとして音楽を置いてみて名付けてみるのをやってみたいなと思って、つけました。行ったことない場所のサウンドスケープなんです。それ以外はイメージでつけたかな。


──タイトルで時間を示しているものが多い気がしました。「雨がやみました」とかも時間の経過を示していますよね。


角銅 本当ですね。へー。時間の経過に惹かれてる部分はあるかもしれないけど、なにも考えずにそうなりました。


──タイトルって曲に命を宿らせる行為だったりするじゃないですか。すくなくとも角銅さんは「作品第何番」とかじゃなく、言霊を求める人なんだなと思いました。言葉にしてみたら「ああ、そういうことだったのか」ってまるで他人事みたいに理解できた、みたいなことよくありますしね。


角銅 まさにいま話を聞いてて「そうかも」って思いました。


──そういえば、アルバムのコメント、高城くん以外にも、美術家の小沢裕子さん、そして灰野敬二さんが寄せていますよね。


角銅 小沢さんはもともとはビデオ作品が多い美術作家の人で、その映像にわたしが音楽をつけたり演奏したりしていたんです。小沢さんの個展でわたしが演奏したりもしました。小沢さんには、ボイスメモに歌ったり、ピアノを弾いたりしてるのを送っていて、わたしが自分の音楽を始めたころから「いい。もっと作ったら?」って言ってくれてる数少ない人です。


──そして、だれもが気になっているであろう一文が、灰野さん。


角銅 めちゃめちゃ影響受けてますね。影響受けたというより勇気づけられたという感じです。音楽に向かう姿勢とか。


──そもそもどうやって知り合ったんですか?


角銅 前に六本木のSUPER DELUXEでわたしがライヴしたときに、たまたま灰野さんがDJで参加されてたんです。あの日、わたしは本番前で気が立ってて、楽屋に入ったとき、座ってた灰野さんをめちゃにらんだんですよ。わたしはあんまり覚えてないんですけど。あとで灰野さんにも「なんでにらんだの?」って聞かれたんですけど、とにかく目つきがわるかったんです。でも、そのときに「きみ、なんて名前? なんか名前載ってるものとかないの?」って聞かれて。ちょうど一週間後に初めての自分のインスタレーション作品の個展がある予定で、その期間中一日だけわたしも含めて4、5人のパーカッショニストで私の自作曲を集めたコンサートをやることになっていたんです。それで、そのチラシを渡したら、当日、灰野さんが来たんです。


──なんと!


角銅 灰野さんはずっとにやっとしながらわたしの演奏を聴いててくれて。そのときはまだ歌はちょっとしかやってなくて、息の音や体の音、テーブルを叩く音を曲にしてみたり、オルゴールを壁にばーっと並べてみんなで回したり、ちっちゃいテクスチャーを感じるような曲をやっていました。そしたら次の日に灰野さんから電話がかかってきたんですよ。


──それも、なんと!


角銅 2時間くらい感想を言ってくれました。「ぼくがテーブルを叩いたらテーブルが壊れるまで叩き続けるのに、なんできみは壊さないし、あんなちっちゃい音だけで音楽をやれるんだ?」って言われたんです。わたしは「おもろ! なんで壊すんですか?」って返して(笑)。その電話ですごく盛り上がって、そこから仲良くなりました。


──すごいですね。年齢とかを超越した関係。 


角銅 好きな色の話をしてたことがあるんですよ。灰野さんは「黒」。そのときわたしは猫を飼いたいって話をしてて、わたしが「猫にはキリンかキイロって名前をつける。黄色がすごく好きだから」って話してたら、それで、アルバムにコメントを書いてくれることになったときに「じゃあ、暗号みたいな、二人しかわからないことをちょっと入れよう」っていう話になって。だから「黄色」がコメントに入ってるんです。すごいうれしかったです。


──素敵なコメントですよ。


角銅 ね、わたしも大好きです。灰野さんは一番素直にいろんな話をできる人です。アルバムを聴いてくれたときにも、灰野さんが自分から「ぼく、なんかコメント書いちゃっていいのかな」って言い出したんですよ。でも、いざ書くとなったら「自分がこれを書くことでこのCDが売れなくなったらどうしよう?」とか言って、すごく迷ったうえで書いてくれました。そんなわけないじゃないですか。かわいいですよね?(笑)。かわいいっていうか、真摯な人なんですよ。尊敬しています。


──アルバムのラスト・ナンバー「Bye」には、灰野さんの影響と思ってしまうほどの轟音が出てきてびっくりします。


角銅 あの曲に関しては、灰野さんの影響はぜんぜんないんです。むしろ、あの曲をアルバムに入れたのはいたずらみたいなところがあるんです。わたしがなにかを作る理由って、考えてみたら、ぜんぶ「いたずら」なんですよ。自分ではこのアルバムは「わたしはこの世へのラブレターの、さいしょの切れ端たちをいたずらにして、箱に詰め込みました。」と書きましたけど、ラブレターといたずらが混じったような感じなんです。チュウの音で「Kiss」って曲名にして1曲目に置いたのもそう。なんかいたずらしたいんです。人を驚かせるのが楽しい。


──灰野さんは「Bye」について、なにか言ってました?


角銅 灰野さんにあれを聴いてもらうのは恥ずかしかったけど、逆に、どう思うのかも気になってました。「ぼくは最後の曲はあえてなにも言わないけどね」って灰野さんは言ってましたけど、「スネアのチューニングとかをもっとだるんだるんにしたほうがロックの音がするんですよ」とも言ってくれましたね。「わたしはとにかくいたずらしたかったんです」って言ったら、ニヤって笑ってました(笑)。「Bye」の最初に出てくる打ち込みの音は、わたしが初めて買ってもらった楽器で、カシオのちっちゃいキーボードなんです。夢のある音がいっぱい入ってて、めっちゃいいんですよ。「宇宙」とか「チャイルド」とかのボタンがあって、それを押すと出てくる音が全部素敵なんで、今でも大事に持ってるんです。それで曲を作ってみて、「どうにかしてこれもアルバムに入れたいし、続きを考えたいな」と思ってたのが最初です。それで、続きをやってみたら、こうなりました(笑)


──バンド編成で、水門が全開になって感情があふれ出すような轟音に。


角銅 でも、自分でそうしたいと思ったんです。「だれがいたら、その音になるかな」と考えて、メンバーにも声をかけました。でも、アルバムの最後をこれにしようとはぜんぜん決めてなかったんですけどね。


──そういう意味では「Bye」は、聴き手に向けた究極のいたずらかも。高城くんもコメントで、あの曲のぶちあがる展開にびっくりして夕飯の支度中に包丁で指を切ったと書いてましたけど(笑)


角銅 ね! 高城さん大丈夫ですかね?(笑)


──でも、ああやって高城くんのコメントがあることも、おもしろいですよね。ceroのサポートとしておおぜいのお客さんの前で演奏する体験が増えているタイミングで、初めてのソロCDが出て。人生で角銅さんが出会ってきた人たちとも、お互いの人生がたまたまそのとき交錯してるだけかもしれないですけど、本当に予想もつかないことが起きてますよね。


角銅 いままでは目の前の人が聴いてくれていたけど、CDになったら目の前の人じゃない人がわたしの音楽を聴くわけじゃないですか。逆に緊張しますけどね。


──予想のつかないおもしろさがアルバムには詰まってると思います。


角銅 いやー、もっと予想つかなくなりたいです(笑)。ベネズエラ人の友達に「マナミは何のために生まれてきた?」って聞かれたことがあるんです。そのときに、すっと「自由になるため」って答えが自分から出てきた。なんでそう言ったのか、あとで考えるといろいろおもしろいんですよね。自由っていうのは自分のなかで特別なもの。自由になるためには、まず重力からも自由にならなくちゃいけなくて、そのためにはまず筋肉が必要なんです。だから、鍛錬が必要だなと思ったし、もっと楽器がうまくなりたいです。変な順序でいろいろたどってる気はするけど、いまは「音楽が好きだ」って素直に思えてるんです。





(おわり)


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もう本日ですが、角銅真実『時間の上を夢が飛んでいる』発売記念のインストア・ライヴが渋谷タワーレコードで行われます。



撮影:廣田達也


角銅真実とタコマンションオーケストラ(横手ありさ
「時間の上に夢が飛んでいる」発売記念インストアイベント
カツオ・プレゼンツ・熱い音ライブ


17:00
7F イベントスペース
ミニライブ&サイン会




舞台「百鬼オペラ”羅生門”」に演奏や歌で出演中。
東京公演はBunkamura シアターコクーンで9月25日まで。
10月は兵庫・静岡・名古屋公演が行われます。