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なにかあり/とくになし

イージーリスニング風来坊

過日、
お店にかっぷくのよろしい、
しかし、どこかあやしげな紳士がやって来た。


イメージとしては
筒井康隆を若くして風来坊にしたような感じの御仁。
マントのようなコートを羽織り、
スーツを着流しのように着こなしている。


目が合うなりのご質問。
というか、アカペラ。


「あのさ、
 イージーリスニングだと思うんだけどさ、
 ドミソ、ドミソ、ドミソ、ド(1オクターブ上)、
 ホニャラララララ、
 って曲、わかるかな?」


おっしゃるには
ヴァイオリンか何か、
ストリングスで演奏されていたのだという。


突然のことで想像もつかない。
うーん、わかりません。


「じゃあさ、
 ギターの曲なんだけど、これはわかる?
 ツンツンツルツン、
 ツンツンツルツン、
 ツンツンツルツン、ツルツン〜」


それはわかった。
シャドウズの「春がいっぱい」だ。


そう告げると、
「おお!」とうれしそうにして
紳士は去っていった。


問題は「ドミソ」の方だ。
帰ってからもしばし「ドミソ」を
口の中でもごもご繰り返してみる。


そして今は数日後。
さっき、ひらめいた。
あれって「オブラディ・オブラダ」だったんじゃ?


しかし、そんなことよりも気になるのは
あのイージーリスニング風来坊のゆくえだ。


「ドミソ、ドミソ」とつぶやきながら、
今頃、どこをふらふらしているんだか。