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なにかあり/とくになし

去年マリエンバートで、を、あのときACTシアターで

スフィアン・スティーヴンスのライヴに行くため、
ツマと6時半に待ち合わせした。


「じゃ、6時半に●●で」と言った返事が
「わかった、去年マリエンバートで」。


これはナイスな返し。
走者一掃、痛恨のヒット。


去年マリエンバートで」は
1961年のイタリア映画。
監督はアラン・レネ


モノクロで静物画のような美しい映像と
淡々としつつ難解な構成で知られる。


なんて、わかったようなこと書いてもしょうがない。


これは学生時代のぼくにとっては、
始まったと思ったらすぐ終わってしまう映画でもあった。


そんなにも面白いのか。


ではなくて、
あまりに徹底して観客を突き放した構成ゆえ、
睡魔がすぐにやってきてしまうのだ。


大学生のころ、
高田馬場の、今は亡きACTシアターで、
よくこの映画は上映されていた。


ACTシアターは、
一般映画館では上映が難しい難解な作品や
「時計仕掛けのオレンジ」や「甘い生活」など、
当時は日本の一般スクリーンでの上映権が切れていた名画などを
よくかけていた良心的なミニ・シアターだった。


しかし、
このシアターには、
もうひとつ大きな特徴があった。


それは客席が畳敷きになっていたこと。


観客は枕状の背もたれに寄りかかり
足を投げ出すもよし、
寝っ転がるもよし。


そりゃあ気楽でありがたいのだが、
はっきり言って、
難解な作品を見るときはつらかった。


去年マリエンバートで」を
ACTシアターで眠らずに観たというひとに
わたしは会ってみたい。


ACTシアターと言えば、
こんなこともあった。


夏の夜中に連日の企画で
鉄腕アトム」オリジナルTV放映ヴァージョンを
オールナイトで上映する企画があった。


いくつか、どうしても観てみたい話があって
ある夜、終電近くに高田馬場まで出かけた。


順調に6本ほどが終わり、
さて次の話は、と待ち構えていたとき、
不意に始まったのは
カリガリ博士」!


キャー!
恐怖の無声映画
そして続けざまに「戦艦ポチョムキン」!


何を思ったのか、
映画史を大切にするACTスタッフの深慮遠謀か、
夜中2時過ぎにいきなり無声映画の傑作2本立てが
挟み込まれたのだ!


畳に寝ながらスクリーンに向かう松永良平(19歳)に
無言で迫り来る博士と戦艦に勝てる知力と忍耐は無かった。


爆睡。


目が覚めると、
後半に上映されていた「アトム」6本の
すべての上映が終了するところであった。
合掌……。


去年マリエンバートで
あのときACTシアターで。


話が長くなったので、
スフィアンの話は後日とする。