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なにかあり/とくになし

聖子の吹き替え

田辺聖子熱を遅れて発症したツマの影響もあり、
行きがけの成田空港で買った
「ほとけの心は妻ごころ」(角川文庫)を
ロサンゼルス空港でも読んでいた。


角川文庫の
目にやさしくない小さめの活字、
不思議な格調があって
きらいじゃない。


にこごりのような関西弁で繰り広げられる
中年夫婦の応酬を読んでいたら
ふと目で追っているはずの活字が
現実の声になった。


「奥さんどこ?」
「ここやここ」
「あら、あたしの赤い腰巻き、どこいた?」
「あすこやあすこ!」


うーん。
かましい。


十人以上はいるだろうか?
関西方面からのツアー客の方々で
多くは妙例のご夫人方であった。


機内に乗り込むときも席が近く
「でーや」
「でー」
「でー」
「でーか」
と意味不明の単語が飛び交っている。


「D」の席を探していらっしゃるのだった。


田辺聖子
このちょっとした群像劇を
ぼくのところに呼び寄せたのか。


まるで文庫の中のドラマを
吹き替えしてもらっているようで、
機内映画のおざなりな吹き替えを聞いているよりも
何倍も耳に心地よく憎めない。


こっちの方もおもろいわと
文庫を閉じて
ぼくはしばらく寝たふりをしていたのだった。