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なにかあり/とくになし

高いところから失礼しますよ その3

モーテルを出たシャトルバスは
しばらく走って大きなホテルに到着した。


カジノがひしめく大通りにあって
もっとも有名なそのホテルと
目指すタワーはちょうど両端の関係にあった。
このホテルから出ているモノレールの乗って終点まで行って
そこからすこし歩けばよいと教わり、
「遠いな〜」と思いつつモノレールに乗り込んだ。


黄金色のネオンが輝くカジノホテル街の裏側を
モノレールはゆっくりと走る。


見回してみると
あまりひとり客はいない。
というか、
冷静に見れば
ぼくだけだ。


しかも
一組降り、
二組降り、と
徐々に人数は減ってゆく。


結局終点まで乗り続けた人間は
ぼくも含めて数えるほどしかいなかった。


夜空を見上げると、
おお、確かに近くなった。


いそいそと歩き出すものの
そこからもまだ距離がある。


そして
大通りの華やかさも
このタワーのエリアだと街はずれ感が濃厚というか。
ネオンが欠けた土産物屋さんの前を
くたびれた風情の通行人が肩を落として歩いている。
あれはカジノですったと言うより
はじめからお金のないひとの歩き方だ。


なんだか妙なところに
来てしまったかもと若干の後悔。


だが
見上げてみれば
そこにタワーはちゃんとある。
上空のラウンジは妖しい光を放ち、
上下に移動するフリーフォール「ビッグ・ショット」も
回転しながらビルからはみ出す「インサニティ」も
すでにはっきりと見えていた。


いざ!


夜のいい時間にもかかわらず閑散としたカジノを抜け
高速エレベーターと乗り物チケットを買いに窓口を目指した。


あれほど目立っているんだもの。
しかも夜中まで営業してるときた。
多少の行列も覚悟しよう。
しかたないっす。


しかし
行列はなかった。
チケットはすぐに買えた。


エレベーターはそっちよと教わるままに向かってみるが
依然としてひと混みは見当たらない。


一抹の不安を感じつつエレベーターに乗車。
おどろくほどのスピードで一気に300メートルまで上昇。
ドアがひらくと
そこは豪奢な夢の世界……。


んむ?
なんだ?
なんか思ったよりしょぼい。
安い感じがするぞ?


似顔絵の職人さんがいて
黒人男性がうれしそうに似顔絵を描いてもらっていたが、
もっとハイテクなメカや内装が似合うはずのイメージに
いまだにそんな人力のサービス業が稼働している現実が
頭の中でうまく噛み合わない。


一抹の不安を感じつつ、
まずは地上350メートルを体験出来る
世界最高峰のフリーフォール「ビッグ・ショット」へと向かったのだった。(まだつづく)