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なにかあり/とくになし

高いところから失礼しますよ その1

先月の話だが
アメリカのカジノ街にいた。


金と欲望のうごめく街と言えば聞こえがいいが
リーマンショック以来
その金メッキもはがれ気味のご様子。


空港からホテルまでのタクシーで
運転手のおじさんに
「バクチに勝つ方法は?」と訊いたら
「バクチをしないことだ」と
あっさり答えられてまいった。


翌日の昼、
この街にも何軒かあるレコード屋のひとつに行き
店を出て空を見上げた。
いい天気だったのだ。


ふと目に留まったものがある。


何だありゃ?


有名ホテルが居並ぶ大通りの終点に
高さ300メートルはあろうかというタワーがある。
かたちとしては
京都タワーを縦につまんで引き延ばしたような感じか。


その頂上にある展望フロアーと思しき場所の
屋根のように見える場所から
何かがはみ出している。


回転ブランコにも似た
ぐるぐる回る機械が
屋根の外にはみ出していた。
その“枝”の先には
ひとの姿らしきものも見えた。


あれは、ひょっとして
屋上遊園地か?


さらに目を凝らすと
針のように上に伸びるビルの芯を
腕輪のような物体が上下に動いている。


…………マジかよ。
地上300メートルに絶叫マシン……。


じりっと魂の鍋底が音を立てた。
続いてその熱くなった鍋底に
小さな裸足の男たちがずらずらと現れ、
「アチ、アチチ!」と言いながら激しく踊り始めた。
(すべて脳内の出来事です)


行、き、た、い、な、ハ!
行、き、た、い、な、ハ!
行、き、た、い、な、ハ!
行、き、た、い、な、ハ!


小人たちは
熱さに耐えながら小躍りを続け
ぼくを激しく鼓舞した。


あんまりうるさいので
昼食で訪れたタイ・レストランの
激辛スープで胃の奥まで流しこんでやった。


そのおかげなのか
とりあえずしばらくは
わるい小人たちの踊りはおさまったらしい。


だが、
日が暮れるころに
またしても胸がざわつき始めた。
夜には夜の魔物が棲んでいるのだった。(つづく)