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なにかあり/とくになし

かっこつけすぎています

毎月第一土曜日恒例のDJ
「GARDEN」@恵比寿tenement、
今回も楽しく終了しました。


ゲストDJをお願いした水上徹さん、渡邉誠さん、
おそくまでありがとうございました。
ふたりのチョイスする
夏の終わりの音楽はやはり最高に危険でした。


いつも足を運んでくださるみなさまに加え、
今夜は
思いがけないお客様にも来ていただきました。
おどろきました。
ありがとうございます。


ハイファイで気軽に声をかけたら
兄弟(+その奥さん)で来てくださった方、
当ブログなぞなぞCD-Rの歴代最高勝率を誇る方、
そして一度ちゃんとお会いしてみたかった坂口修さん。


肝心なところでひと見知りが出る
卑怯な性格ゆえ
しどろもどろなご挨拶ばかりでしたが
今後ともよろしくお願いいたします。


↑ここまでは謝辞につき“ですます”。
↓ここからはいつものぞんざいな口調に戻る。


「GARDEN」終了後、
イベントに来てくれたMさんの車に同乗させてもらい
阿佐ヶ谷に着いたのは夜3時過ぎ。


すっかりくらい部屋の電気スタンドを灯すと
プレーヤーの上にぼおっと一枚のCDが浮かび上がった。


眼鏡をかけた
よく知っている顔の男性が
ギターを手にして遠くを見ている
ちょっとかすんだようなポートレート
思わず息を呑んだ。


それは
美術作家の永井宏さんが送ってくださった
「The August Songs」というCDだった。


永井宏さんにとって
これはシンガー・ソングライターとしての
初めての作品になるそうだ。


ぼくがまだ書く仕事を本格的にはじめる前に
永井さんの主宰する雑誌に
文章を書いて送ったことがある。


結果から言うと
その原稿は不採用だった。


永井さんからは毅然とした感想をいただいた。


前後はおぼろげになってしまったが
そのなかのひとこと
「かっこつけすぎています」が
ぼくの心にぐさっと突き刺さった。


だがありがたいことに
その言葉は
ぼくを見放すためのものではなかったらしい。


その後しばらくして
永井さんと中川五郎さんの対談集
「友人のような音楽」の編集を
なぜかぼくが担当することになった。


出版社の方のサポートはあったとは言え
プロとしての編集経験もないぼくを指名したのは
冒険と言うしかないが、
ぼくにしてみれば
「かっこつけすぎています」どころではない状態に追い込まれ、
スリリングな仕事をさせてもらったのは
この上ない勉強であったと今もとても感謝している。


最近はなかなか永井さんにお会いする機会もなかった。
だから
真夜中過ぎにふっと姿を現した永井さんのCDには
思いきり不意を突かれた気になったのだ。


もう明け方近いし
明日にしようかと思ったが
誘惑に負けて
一曲だけヘッドホンでCDを聴いた。


やせて傷ついていて
不安定この上ないのに
飛び立つという意志だけはどうしようもなく持っている鳥のような
永井さんの
隠し立てしない歌声が聴こえてきた。


まいったな。
ほろほろと頼りなくて、
巧さで言えば最低だが、
どこにもすがらずに立っているという意味で
これは最高の声だ。
どうしてこんな声で歌えるのか。


「かっこつけすぎています」と
その鳥は鳴いた。


今もぼくのなかに
自覚と自戒とともに眠るそのひとことを
叩き起こすやっかいな明け方の鳥だった。