mrbq

なにかあり/とくになし

アムステルダム

NHK-FM小西康陽 これからの人生。」
今年最後の放送はリクエスト特集。


多くのひとが感嘆の声をあげているように
いつもの市川実和子さんに加えて
愛川欽也さんのMCでの起用が素晴らしかった。


キンキンの声で
“マーデン・ヒルの「ガーデン」”って言われた日にゃ
それはもうSFを越えたおもしろさ。


ところで
今月のはじめ、
小西さんにお会いしたときに
「リクエストしたい曲があるんです」と告げて
出す気まんまんだったのに、
そのあとシメキリの波に巻き込まれ
応募を逸した。


それはだれの何という曲だったか。


くやしいから
来年まで黙っておこうか。


来年も
またリクエストしたいし
リクエストしたいという気持ちを持って生きてたいし
リクエストしたい世の中であってほしい。


リクエストで思い出したことがある。


高校のとき(80年代半ば)
授業を抜け出して麻雀ばかりしていた時期がある。


学生服で雀荘に行けるはずもないので
向かうのは高校に近い友人の家など。


あるとき
友人のひとりが「今日はうちで」と言うので
ぞろぞろと着いて行ったら
そこは商店街のはずれのスナックだった。


それまでだれも知らなかったが
彼の母親は水商売をしていたのだ。


夜の街は
昼間のほうが暗い。
ぼくたちも
だれかに見られやしまいかと
なんとなくおじけづいた気分になる。


「よかよか。
 おれ、息子だし」


友人は
われ関せずと灯りを点け
店内を赤く照らすと
テーブルに雀マットをひろげた。


友人はカウンターのなかにはいると
ドリンクやお菓子を物色し、
さらに
ステレオのアンプのような機械のスイッチを入れた。


店内に音楽が流れだした。


「うちは有線引いとるけん
 BGMはなんでん(なんでも)あるよ
 電話でリクエストもしてよかよ」


有線放送!


その言葉に
ぼくはただならぬときめきを覚えた。


そのすこし前に
なんかの雑誌で
漫画家の桜沢えりか(赤星たみこ、だったかもしれない)が
有線放送について語っていた記事を思い出したからだ。


「有線放送は意外と音源が豊富なんです。
 ラジオではかからないような曲や
 廃盤で二度と聴けないと思っていた曲も
 リクエストするとかかったりしますよ。
 わたしはデヴィッド・ボウイのシングルのB面に入っている
 「アムステルダム」をかけてもらいました」


え? 「アムステルダム」!


ボウイにそんな曲があること自体
はじめてその記事で知った!
なんだそりゃ?


今みたいにYoutubeもないし、
すこしでも情報が得られそうな熊本市内のレコード屋に行くにも
時間はかかるわ金はないわ。


いったい「アムステルダム」ってどんな曲なんだろうか。
その「アムステルダム」を
ここからリクエストしてもらえないものだろうか……。


「あのさ……、
 デヴィッド・ボウイの「アムステルダム」を……」
「ロン!」
「あ!」


もじもじと「アムステルダム」のことを考えているうちに
その日
ぼくはありえないくらいの大敗を喫した。


後年
アムステルダム」をようやく聴き、
ジャック・ブレルのカヴァーであると同時に
ボウイのアイドルであった
スコット・ウォーカーへのオマージュであることも知った。


でも
あのときの「ロン!」が邪魔をして
いまだに曲に酔えずにいる。


ちなみに
「これからの人生。」にリクエストしたかった曲は
アムステルダム」ではない。