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なにかあり/とくになし

ウィークリー・ワールド・ニュース終刊によせて

「ウィークリー・ワールド・ニュース」を
久々に手にしてみたら、
なんとそれが最終号だった!


「ウィークリー…(WWN)」は
東京スポーツ紙の一面記事の作りに大きな影響を与えた
(相互影響だと東スポは主張するかもしれないが)
アメリカ随一のタブロイド・マガジンだ。


キャッチフレーズは
「世界で唯一信頼できる新聞!」。


何百回も掲載されたであろう
プレスリー生きていた!」をはじめ
この最終号でも
「下半身ワニ男!」とか
「アボカドから生まれた赤ちゃん!」とか
「ドレッド頭のロブスター発見!」とか
あほくささを通り越して脱力してしまうヴィジュアルと
事実であることを宣言して揺るがない記事の論調で
相変わらずぶっとばしている。


B級C級を通り越したZ級の記事の数々は
そのままアメリカ社会に巣食うマヌケさの拡大であり、
笑いをよそおった告発でもあった。


その「WWN」が、この8月27日号をもって
終刊となったのだ。


今後は
並行して進められていたウェブサイト・マガジンに
完全移行するのだという。


ウェブで読めるのならいいじゃない?


ぼくはそうは思わない。


編集主幹のエド・アンガーは巻末コラムに
大量消費社会、ウェブ社会がもたらした現実こそが
「WWN」の中にある荒唐無稽な世界よりも、
ずっと愚劣で先が無いことを示唆している。


以下一部を引用する(筆者訳)。


そろそろ新しい習慣とやらをやめて
昔に戻るべきときだとおれは言いたい。
バカ高いエクササイズ・マシンや
二度と通わないであろうジムなんか要らない。
街を歩いて、おとなりさんにごあいさつするんだ。
ケーブル・テレビの電線は切って、
DVDを買うのもやめろ。
また読書を始めればいい。
子供たちにもそう教えてやれ。
書店や図書館に出かけるのは、とても楽しいぞって。
発見でいっぱいだぞって。
ウェブ・サーフィンに似てるかもしれないけど
こっちは現実なんだ。
そう子供たちに伝えてほしい。


エド・アンガー


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あらためて言うが、
この心のこもった悲しき遺言は
アメリカで、
もっとも劣悪で無意味で無価値だとされてきた雑誌
「ウィークリー・ワールド・ニュース」の最終号の
最終ページに載った一文なのだ。


紙や実体を愛するという気持ちもひとりとしての
名物雑誌の終焉に対する切なさもある。
だが、何よりも、
この現実の社会が、
与えられた情報を単に選択させられているだけのことを
自分の欲しいものがラクラクと手に入る社会なのだと
錯覚させる方向に進んでいることへの危惧が
ざわざわとさわぐのだ。


そんな時代に育った世代が
無駄や無意味と感じるものを排除しはじめたとき、
とてつもなく大きくて大切な何かが
知らないうちにちょきんと切り落とされたように終わる。


まあ、もっとも
「WWN」最終号の表紙には
「この最終号を今すぐ買って、明日eBayで高く売ろう!」と
ヒルな最後っ屁がかまされているのだけれど。