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なにかあり/とくになし

追憶の池袋喫茶奇譚

もう20年近く前、
池袋に住んでいた。


昼間、
西口をふらふらと歩いていたら、
道ばたや壁に
「コーヒー、5円」と
大書きした紙がべたべたと貼り付けてある。


加えて、
大きな「→」が、
こっちへ来いと誘っていた。


ふむふむ。
これは何やら事件性あり。


くんくんと不思議なものの匂いをかぐように
矢印の先へと向かうと、
脇道の角が終点だった。


つぶれたカラオケパブかしら?


開け放たれたドアからおそるおそる中をのぞき見ると、
中尾彬を若くしたような着流しの男がいた。


「いらっしゃい!」


ドキーン!


その、やけに威勢も滑舌もいい「いらっしゃい」が
まるで妖怪の正体を見てしまったときの
「見〜た〜な〜」
に思えた。


見てはいけないものを見てしまったか。


さあ、どうする松永良平
以下、明日に続く。