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なにかあり/とくになし

マイ・ライフ・アズ・ア・(シリー)・ドッグ その5

「マイ・ライフ・アズ・ア・(シリー)・ドッグ」というタイトルを
なぜつけたのか。


有名な映画のタイトルのもじりだし、
寝転がりながら適当につけたと言ってしまえばそれまでだが、
ぼくなりに
当時の状況をあらわしたものでもある。


某派遣会社に登録をして
毎日夕方になると会社に電話をし、
明日の働き場所を決める。


その日に仕事がなければ
「明日はありません」と言われるし、
人手が足りないときは
向こうから電話がかかってくることもあった。
そういうときにもらえる仕事は
たいていひどい内容のものなのだが。


仕事の内容については
いつもおそろしく簡単な説明しかもらえなかった。


「品川で軽作業。朝7時半集合です」
「天王洲で事務所移転です。36時間働けますか?」
「王子で事務作業です」


毎日仕事場も変われば
仕事の中身も変わる。
そして自分が従うべき主人も変わる。


行ってみるまで重労働なのか軽作業なのか
室内なのか野外なのか
おおぜいなのかひとりなのかも判然としない。


毎日仕事が変わるから
経験も自信も
信頼関係も
築くことなんか出来ない。


それなのに
はかない日当を求めて
忠実な犬のようにご主人さまに尻尾を振りながら
ぼくは出かけて行ったのだ。


明日おまえのご主人さまになるやつは
にこりともしないで鞭をふるうサディストかもしれないのに。


まあ
そんななかでも
ひどい思い出ばかりではないのだと自分に言い聞かせながら
いくつか記憶を拾って書いているわけだ。


たとえば
その時代にぼくが体験した
もっともファンシーな労働は、
当時大変なブームだった
ポケモン”ことポケットモンスターに関するものだった。


時期は年末だったと思う。
荒川のほうのちいさな町工場といった古めかしい建物に
結構な人数が集められた。


そのときはじめて
その日の作業が発表になるのだが、
いつもはげんなりと無表情な人間の群れから
空気が抜けるような弱々しさだったとは言え
歓声のようなものがあがったのを覚えている。


その日の仕事とは、
ポケモンのかたちをした焼き菓子、
その名も
ポケモン人形焼きの箱詰めだったのだ。(つづく)


マイ・ライフ・アズ・ア・(シリー)・ドッグ その5