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なにかあり/とくになし

その25ドルのチケットは世界で一番安い その1

ジョン・ブライオン
ウェスト・ハリウッドにある
古い映画館を改装したライヴハウスLARGO(ラルゴ)」で
毎週金曜日の夜にライヴをやっていた。


ラルゴが今の場所に移転する前は
フェアファックス通りの店で
食事するお客さんたちに囲まれてやっていたが、
3年ほど前に
新しいラルゴになってからは
より音楽に集中したショーが行われている。


その
とんでもなくおもしろいありさまについて
過去にもぼくは書いてきた。


2008年


2009年


ところが
ここ一年くらいで
彼の出演ペースが変わった。


ラルゴ自体に
ほかのアーティストがどんどんブッキングされるようになったこともあるが、
ジョン・ブライオンの出演は
月に一度か
下手したら
出ない月もある、というくらいの
悠長さに変わってしまったのだ。


映画やプロデュースの仕事が忙しいのか、
それとも毎週の即興音楽ショーに飽きてしまったのか。


西海岸に渡米するとき
ラルゴのスケジュールを確認するたびに
ぼくはため息をついた。


一度あのショーを体験した者は
機会さえあれば
毎晩でもその場に居合わせたくなってしまうはずなのに。


いや
もっと切実な
音楽ドラッグと言ってもいいかもしれない。


そして
先日のこと。


思わぬ好運で
ロサンゼルス滞在と彼のラルゴ出演が
ようやくぴったり重なった。
しかもうまい具合に
今月は金曜、土曜と
二日つづけての出演だという。


ジョン・ブライオンが二日ショーをやって
そこで同じ曲が同じように演奏されるなんて
絶対にありえないことを
ぼくたちは知っている。


夜9時半にはじまるショーが待ちきれなくて
昼間のうちから
ドキドキしていた。


9時20分ごろ、
ラルゴへ。


ところが
着いてみて人だかりに驚いた。
以前は
ジョン・ブライオンのショーは
 毎週やっているからソールドアウトしない」と言われていたのに、
今日(金曜日)のショーは売り切れだというのだ。


「でも
 多めに予約する連中がいるから
 きっと入れると思うよ」


受付の兄ちゃんがそう言ってくれたので
しばらく待つことにした。


そしたら
ほどなく
来ました来ました、
余りチケット。


「11人で予約したんだけど、10人しか来れなくて」
「ちょうどよかった。その日本人の彼から25ドルもらって」


かくして
無事にラルゴのなかに入ることが出来た。


入り口でもらった番号札は座席を示すもの。
以前は
完全に自由席だったのに。


やっぱり
登場回数が減ったことで
それだけこのショーがプレミア化しているというか、
今まで普通に見られたこと自体が
好運すぎたような気がしてきた。


だってさ。
この25ドル。


ぼくの知る限り、
この25ドルは
世界で一番のコストパフォーマンスだもの。


ジョン・ブライオンを体験するために払う対価としては
安すぎるくらいだと本気で思っている。


濃密で
神秘的で
でもとてもリラックスしていて
どこに連れていかれるのかわからないし
本人にも行き先がちゃんと見えてないのに、
着いた先には
必ず満足以上のものが待っている。


その心地よい混乱は
絶頂時のNRBQにも比肩する。


というか、
この衝撃体験に似たラジオ番組を
ぼくは日本でも最近知ってるけど。


ほら、あれだ。


安田謙一「夜のピンチヒッター」!


というわけで
今日からしばし
ジョン・ブライオンの二日間のショーで目撃したものを
記憶を頼りに
自分なりに書き起こして再現していくことにする。


つづく。