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なにかあり/とくになし

偽キューバ人雑感

マーク・リボーと偽キューバ人たちが舞台に現れたとき、
客席はすし詰めだった。


しかも
このツワモノたち、
全員座って演奏するのだ。


渋谷クラブクアトロのフロアーで
身動きも取れずに立ち往生したぼくには
かろうじて
パーカッショニストとドラマーと
オルガン・プレイヤーの顔が見える程度。


出て来て
いきなり腰掛けたマーク・リボーに至っては
髪の毛のてっぺんしか見えない。


しかし
結果的に言えば
それでも十分楽しめたのだ。


もとより
このバンドの
架空のキューバン・サウンドを楽しむために必要なのは
視覚ではなく
触覚や嗅覚だと思う。


それに
ぼくが想像していたよりもずっと
彼らの演奏は直感的で肉感的だった。


あの変人ギタリストのやることだから
きっと考えオチに違いないぜと
思い込んでいた了見の狭さを
ガツンと思い知らされた。


ジャリジャリジョリジョリと
聴覚を刺激するリボーのギターは
みそから無駄な理屈を削ぎおとしていくアカスリのように思えた。


あ、でもちょっと待って。
そのアカスリ、
手に持ってるのはタオルじゃなくて
鉄のヤスリじゃないか!


ジャリジャリジョリジョリ。


それとも
殺人的なくらい強力な
モミダッシュPROとか!


憑き物が落ちたように
気持ちよく阿佐ヶ谷を歩く帰り道、
そう言えばあいつらの音、
なんとなく
ずっと前から知っていたような気がするんだ。


あ!


「キャラヴァンサライ」!


これは笑うオチじゃなくて、
ぼくとしては
サンタナをアゲているつもりです。


マーク・リボーと偽キューバ人を思い出しながら
サンタナの「キャラヴァンサライ」を聴くのは
わるくないはず。


雲に隠れた三日月も
ニヤッと含み笑いをしていた気がする。