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なにかあり/とくになし

yojikとwandaの閉じない世界 その3

 yojikとwandaのセカンド・アルバム『Hey! Sa!』発売記念インタビュー、第三回。祖師ケ谷大蔵のカフェ・ムリウイでのライヴ後の収録で、お忙しいなかに時間をとっていただいた。ここからはyojikに代わって、ふたりのサウンドの要であり、予測不能の名曲作家であるwandaに話をきいていく。


 小柄ながらシャキシャキと歯切れのいい言葉を繰り出すyojikとは対照的に、からだをまるめるようにぼそぼそとwandaは話しはじめた。


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ーーyojikさんが「wandaさんは宅録的な人なのに、感覚優先で音を決めていく人だ」って言ってましたけど。


wanda いや、決めるところは決めたいというのはあるんです(笑)。でも、理屈だけはちゃんとやったうえで適当にしたいという意味で。みんなが自発的に出来るようにやりたい。好きに音を出したらちゃんとよくなったというのが理想なんです。ちゃんと筋道というか譜面だけは渡すけど即興でやれる、『Hey! Sa!』のメンバーはそういう人たちが4人集まってるんですよ。


ーー『DREAMLAND』と『Hey! Sa!』の一番の違いは、やっぱりそのバンド感だと思うんですけど、どういうきっかけでこうなったんですか?


wanda 『DREAMLAND』でも、打ち込みなのに即興演奏みたいなものを重ねて、あとで調整しながら作るということをやってはいるんです。学生時代のバンドが終わってからはしばらくそういうことをひとりでやっていたんで。でも、気持ちがだんだん自閉してきちゃって(笑)。なんか、もっと人とやりたくなってきたんです。昔、ブラバンにいたからかな(笑)。「ぶう〜」ってみんなで音を出したくなったんです。


ーーそれで、ふたりから三人、四人と増えていったと。


wanda 人から紹介してもらえたり、自分で会いに行ったりして、揃ってきたんです。ただ、オーケストラみたいになってしまうのはどうかな、と思ってました。きっちり決まってる演奏も好きなんですけど、そうじゃない人とやってみたいとずっと思ってたら。


ーー最初にサポートで入ったのが、コントラバスの服部(将典)さん。


wanda まるっきり宅録だったファーストをミディで出し直すときのマスタリングをしてくれて、今回のアルバムでもエンジニアをしてくれた上野洋さんが紹介してくれたんです。「服部さんっていう良いベーシストがいるんだけど、yojikとwandaに合うと思うんですよ」って。それで、轟渚さんのライヴに行って、そこでベースを弾いてる服部さんを見て。でも、最初に見たときは、声をかけられなかったんです(笑)。


ーーわざわざ見に行ったのに、あいさつしなかったんですか?


服部 (隣のテーブルから)かけられなかったですね(笑)


wanda びびりながら、しょぼしょぼと帰っていきました(笑)。でも、そのあとに『DREAMLAND』を送ったら返事をくれて。それで3人でやるようになりました。


ーー(笑)。そこから徐々にメンバーが集まっていったわけですね。


wanda そうですね。そのあと、イトケンさん、sirafuさんが入ってくれた時点で、これはもう「このメンバーで録音したい!」という気持ちになってましたね。sirafuさんとは、mona recordsでザ・なつやすみバンドと僕らが対バンしたときに知り合ったんです。4組出たなかの僕らが最初で、なつやすみバンドが2番手だったかな。彼らのリハを見たら、めちゃくちゃよかったんですよ。「東京のシーンは広いなあ」と思って結構へこみました(笑)。そしたら、僕らの出番が終わって戻る途中に、「すげえよかったっすよ」って声をかけてくれた人がいて。それがsirafuさんだったんですよ(笑)


ーーまるで渡世人(笑)


wanda それで、なつやすみバンドのライヴが終わったあとに、すぐ「一緒にやってくれませんか」ってお願いしたんです。


ーーひとりひとりが強者だから、集まってくる過程もおもしろい。


wanda イトケンさんも、最初に会ったときはすごく怖かったんですよ。今でも、話してるといい感じで笑ってるんですけど、ひとりでいるときはすごく怖い顔してるときがあって(笑)。スタジオに入ってくるとき、いつもしかめっ面してるように見えるから、「わ、怒ってるのかな?」って緊張します(笑)。話してみると全然上機嫌なんですけど。


ーーそんな怖いイトケンさんを、どうやって誘ったんですか?


wanda キッチンっていうミディから出してるデュオでサポートでドラムを叩いてたんで、そのライヴを二子玉川にあった「ライラ」という店まで見にいったんですよ。でも、なかなか店のなかに入るふんがぎりつかなくて(笑)


ーーえ? もしかしてまた声かけられず?(笑)


wanda なかに入れなくて二子玉川の街をうろうろしてたら、たまたま散歩してたイトケンさんを見かけて。でも、やっぱり僕にとってはすごく怖い顔で歩いてたんですよ(笑)。あれじゃ「そんなのやらないっすよ!」とばっさり断られると思って、「ああ! やっぱり今日はやめよう!」と。


ーーで、どうしたんですか?


wanda 僕には無理だからyojikさんにお願いしようかとも思ったんですけど、なんとかお店に入って、びびりながらもライヴ後にCDを渡したら、次の日くらいにすぐ「OK」のメールをくれたんです。それで「やったー!」と思ってmona recordsに出かけて、そこでsirafuにも出会ったんです。


ーー吉田(悠樹)さんは服部さんとNRQを一緒にやってるからそのつながりかと思ったけど、そうではないらしいですね?


wanda 違うんです。吉田さんは服部さんからの紹介ではないはず。確か、ムリウイyojikとwanda吉田悠樹のトリオでライヴをやって、すごくよかったので、今度は服部さんも加わって、やりました。そのときはこの4人がそれぞれソロをやって、最後に全員でやるという趣向で、それもよかったですね。それで、去年の3月に南池袋のミュージックオルグで、初めて6人全員が集まって6人バンドでライヴをやったんです。


ーー『Hey! Sa!』バンドの誕生ですね。


wanda そのときにはもう「閉鎖されてた」をやってましたね。


ーーあ、そうか。アルバム・タイトルのもとでもあるあの曲って、wandaさんが働いていたキューピー・マヨネーズの工場が突然閉鎖されたという事実から出来た曲でしたよね。


wanda 閉鎖は去年の1月でした。キューピーの工場で、僕、マヨネーズを保存するタンクの掃除をよくやってたんです。そこのなかは音が響きやすくて、「Hey Hey Hey」とかよく歌ってたんで、それを思い出して作ったんだと思いますね。





ーーyojikとwandaって、やっぱり歌詞の魅力も相当すごいと思うんですよ。男女が恋して夢見てせつなくて、みたいなありきたりさとはかなり違う、人間の苦みとか本音の部分も混ざり込んで、なおかつ現実と空想と言葉遊びが自然と融合してるような不思議さもあって。どういう人がどんなふうにこの歌詞をかくんだろうって思ってたんです。


wanda 歌詞が先とか、曲が先とかも決まってなくて。いくつかばらばらのアイデアがあって、それをつなぎあわせて作っていく感じで、編集に近い作業なんです。新作でも、「小田急」は、少なくとも3つの曲から出来てます。イントロが最初にあって。Aメロとサビも違う曲で。それを、小田急に乗ってるときに通る駅名の、生田とか向ヶ丘とか狛江とかを言葉に乗せていけば曲になるなと思ったんです。「I Love You」も4、5曲があわさってます。


ーーメロディの断片がつながるというのはわかるんですが、歌詞もそうなんですか?


wanda 歌詞もです。「I Love You」も、前にタイトルが一緒で別の曲があったんです。宅録ブレイクビーツみたいな曲で、歌詞は「I Love You」しか言わない曲だったんですけど。「あなたのせい」はマイクに向かって即興で歌ったときの歌詞とかを何曲かつないで出来た歌詞だし。だから意味がつながらないところがあります。一時期、思いついたことを書きとめておくノートをいくつか用意しておいて、目についたところから少しずつ歌って、それをあとでつなげて曲に出来るか、みたいなこともやってましたね。「I Love You」はそれに近いやり方で出来た曲ですね。起こったことを全部書いてみるというやり方も試してみたこともあるし。もちろんひとつだけのアイデアで出来てる曲もありますし……。


ーー確かに起承転結という意味ではつながってないのかもしれないけど、曲全体を通してみるとドラマチックに思えるのは、基本的に考えてることが変わらないからでしょうね。yojikさんはさっき「wandaの歌詞がピンとこなくて歌えない曲もある」と言ってたんですよ。でも「だけど歌ってるうちにわかってくる曲もある」とも言ってたけど。


wanda yojikさんに歌ってもらえるポイントがどこにあるのか、僕にもわからないんですよ(笑)。たとえば「あなたのせい」は最初は僕が歌ってたんです。僕以外は歌いにくいし、歌えないだろうと思ってたし。でも、yojikさんが歌えるようになってたし、「歌いたい」って言われたし。


ーー「I Love You」も『DREAMLAND』と『Hey! Sa!』では、歌の割り振りがかなり違いますよね。yojikさんの歌の比重が増えている。


wanda そうです。それもおなじような理由だと思います。


ーー不思議ですね。もう古い仲でお互いの気持ちを完全に把握してる関係と思ってたんですが、まだまだ緊張感があって、間合いを計りながら変わっていってる。


wanda つながりが薄いと言えば薄いような、濃いと言えば濃いような(笑)



(ここで、yojikが戻ってきて、wandaと再び交替)



yojik wandaのインタビュー、大丈夫でしたか?


ーーふたりの感じ方の違いも出て、おもしろいですよ。wandaさんの話でおもしろかったのが、服部さんやイトケンさんに頼むときも怖じ気づいて声をかけられなくて、yojikさんにお願いしようかと思ったとかね。


yojik そうそう。wandaはだれに頼むときもそうなんです。今でも毎回彼らに会うたびに緊張してるらしいですよ(笑)。私が相手だと、きっと違うんでしょうね。


ーーライヴやリハーサルではどんな感じなんですか?


yojik たいてい私たちはふたりだけでやってて、服部さんにお願いするときは、ちゃんとフレーズを決めてるときもあるんですけど、たいてい何も注文を言わないで入ってもらうんですね。そしたら、またそこから音楽が変わっていくんです。私、普通がどういうふうにやるのか知らないから、これが普通なのか異常なのかわからないんです(笑)。前に別の人とやるときに「そんなふうにやってるの? 決めてくれなきゃ出来ないよ」とか言われたときがあって、逆に「え? 違うの?」って答えちゃったぐらいなので(笑)。服部さんにライヴを頼むようになったころから、やっぱり譜面が必要と思ってwandaも書いたりしてるんですけど間違いだらけで(笑)。


ーー譜面がそこまで必要なのかはミュージシャンによりけりな部分もあるでしょうけど、少なくとも今いるメンバーは、どんな事態にも自在に対応しそうですよね。


yojik sirafuさんは、かっちり決めてほしいというタイプではないですよね。吉田さんに至っては何も決めないほうがいいくらいだし。イトケンさんも歌をすごく大事にしてくれる人なんです。そういうそれぞれの思惑がうまくはまるとすごく楽しいんですよ。それを楽しんでいるというのが、あのバンドだし、あのアルバムの感じかなと。だから、すごくみなさんに作ってもらってるところが大きい作品なんだと思います。ある意味、作曲をしてくれてる。私、何もわかってないのにすごくぜいたくなことをしてるなって、今やっとわかってるところですね(笑)


ーーメンバーも、yojikとwandaを応援してるつもりなんですよ。応援したくなる存在というか。『Hey! Sa!』一曲目の「ぼっちゃん」のイントロだって、気持ちの入りようが違うというのが音から伝わってくる。


yojik そうですね。みなさんからもらえる力がすごくあって、びっくりします。


ーーこのチームワーク感を、もっと見てたいと思いますね。wandaさんが自分の作曲は断片を編集して出来るものが多いと言っていたけど、一見、ばらばらなミュージシャンの音が見事につなぎあわさってるパッチワークというのと通底してると思います。


yojik そうそう。私には、これがOKで、これがOKじゃないという基準がよくわかってないんですけど(笑)。やっぱり自分のOKがwandaのなかではっきりしてるので、一見わけがわからなくても、ちゃんと説得力がある状態になってるのかもしれない。


ーーそうですよ! だって、お客さんから「良い曲ですね」とか「感動しました?」とか言われるでしょ?


yojik 言われることあります。「いやされました」とか、びっくりですよね(笑)。人に言われることは毎回「そうなんだ」って感じで受け止めることが多いですね。でも、音楽としてすごく変わったことをやってるわけじゃない。結構ふたりとも普通にいい曲だと思ってやってます。「変わってる」って言われると「そうなんだ」って受け止めるぐらいの感じで。


ーー「変わってる」と言われては「そうなんだ」と思い、「いやされる」と言われては「そうなんだ」と思い(笑)


yojik そのへんがなかなかまだ気が回らないところなんでしょうか。自分のことでせいいっぱい(笑)


ーーでも、僕は『Hey! Sa!』を、いろんなアルバムがあるなかでも今年、一、二を争うくらいよく聞いてるんですよ。いいバンドでいいアルバムが出来たんだから、これでライヴが増えるといいですね。ふたりだけでもいいし、yojikとwanda+αもそれぞれ楽しいし、『Hey! Sa!』の6人が揃ったらこれはもう壮観。次のアルバムもどんどん作ってほしいです。


yojik そうですね。もう次を作っちゃいたいです。


ーーまだまだ音源になってない曲もライヴでいろいろ聞いてますし、次も期待してます。今日はありがとうございました!


(おわり)


では、最後にアルバム『Hey! Sa!』から、yojikとwandaの閉じない世界のためのファンファーレ、「ぼっちゃん」をどうぞ!




yojikとwandaアルバム『Hey! Sa!』発売記念LIVE」


5月16日(木曜)@下北沢440
出演:yojikとwanda
   〈バンド編成:itoken(ds) MC.sirafu(steelpan,trumpet) 服部将典(contrabass)吉田悠樹二胡,mandorin)〉
   ザ・なつやすみバンド
○ 前売2500円/当日2800円(ともにD別)
○ 開場18:30/開演19:30
○ 予約はメールyoyaku.yowan☆gmail.com(☆をアットマークに変えてください)
 および440店頭販売のみです


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