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なにかあり/とくになし

yojikとwandaの閉じない世界 その2

 2013年3月14日、祖師ケ谷大蔵のカフェ・ムリウイで行なわれたyojikとwandaのライヴも無事終了。ライヴ後の時間をお借りして、インタビューのつづきを収録することにした。


 撤収などの合間を縫っての取材だったため、なりゆきでyojik、wandaと、それぞれ単独で話を聞いていくことに。まずはyojik。


 そもそも人前で音楽をやる気はなかったという彼女が、wandaとの出会いを通じて、なぜ“その気”になってしまったのかをひもといてみる。


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ーーそうだ! そもそも、yojikさんがネット上に曲をあげるようになるまでは、どうやって音楽をやっていたのかきいておかないと。


yojik それまでも自分で曲も作ったりはしていたんですけど、私、ギターのコードも5つぐらいしかできないし。だから、基本的には人の曲を歌っていましたね。田辺マモルさんが好きだったので、田辺さんの曲をコピーしたり。ただし、譜面もないし、コピーというほどのことはできないので、聞いた印象を自分で再現したりしていた感じです。


ーーそれが遠距離ながらwandaさんという音楽的パートナーを得て、ついにフィドルの発表会でwandaさんと初めて一緒にやってみよう、というところまがリハ前の話でしたね。


yojik はい。その前に2006年の7月ごろに初めて顔合わせをして、公園で一緒に歌ってみたんです。フィドルの発表会はその年の11月でしたけど、結局、wandaは都合がつかなくて参加できずに終わったんです。


ーーじゃあ、本当に正式に人前でライヴをやったのは、いつになります?


yojik 池袋に明日館という、昔の学校をイベント用に提供している建物があるんですが、その教室のひとつでやりました。2006年の12月です。でも、まだyojikとwandaとは名乗っていません。この名前にしたのは翌年の6月に、恵比寿にあったMILKでのイベントに友人を通じて出演したときですね。このとき、私は初めてマイクやPAを通して歌う経験をしました。


ーー最初はまったくの趣味的な感じでやっていた音楽が、wandaさんとの出会いで、わずか一年ちょっとで、そこまでのレベルになってしまうというのがすごい。


yojik ねえ。本当に不思議ですよね(笑)。wandaは逆に弾き語りの人ではないでしょ? でも、wandaにギターを弾いてもらって、私が歌うと、自分でやっていたのとはすごく違うんです。だから、私が弾き語りだけで続けてたら、もう今は音楽やってないんじゃないかな。


ーーyojikという名前の由来は何なんですか?


yojik わたしの大好きなロシアのアニメーション(ユーリ・ノルシュテイン作「霧の中のハリネズミ」)に出てくるハリネズミの名前にしただけなんですけどね。自分の友だちにもいまだに音楽をやってることを言えてないんですよ。親にもずっと隠してたから、恥ずかしくて(笑)。今はもうばれちゃいましたけどね。とにかく私の音楽活動は始まり方からして計画的じゃないんです。とりあえず、ふたりでやった曲を録音して、聞いて、「この次はこれをやってみようか」とか言って、それで満足してる期間がずいぶん長くありましたね。今はyojikとwandaとして主体的に活動するようになりましたけど。




ーーそれがそのままファースト・アルバム『DREAMLAND』に至る期間でもあって。


yojik そうですね。その前に、今日、会場で売っていたデモ・レコーディングのCD-Rがあるんですけど、それが本当に最初のころの音源です。2008年の1月に出来て、それをムリウイに持って行ってライヴのお願いをしました。その年の8月に、ここ(ムリウイ)でやったライヴが、自分たちで主体的に企画した初めてのライヴでした。あの辺でようやくオリジナルを人に聞かせてもいいものになったかなと自分たちでも思えるようになって。そこまではすごく行き当たりばったりでしたね。wandaは音楽をずっとやっていたから、いろいろやり方を知ってるはずなのに、宅録的な方向に向かっててあんまり外に出て行かなかったんです。ガット・ギターとかギタレレを弾き始めたのも、私の歌をネットで聞いてからとか、それぐらいの時期からなんです。


ーープログレの人だった、って自分でも言ってましたもんね。


yojik そうそう(笑)。それまではエレキ・ギターの人だった。でも、宅録で彼がやっていた曲そのものは、今、私とやっている曲とほとんどおなじなんですよ。打ち込みのアレンジでやっているので印象は違うんですけどね。彼もいろんなものがはいって今に至ってるんですよね。



CD-R「yojikとwanda」より



ーーファースト・アルバムの『DREAMLAND』は、もともと自主制作盤だったそうですね。


yojik 2010年の2月ですね。


ーーこれがミディからあらためて出るに至った経緯を教えてください。


yojik 田辺マモルさんに聞いてもらったんです。そしたら「これならミディで出せるはずなので送ってみたら?」と言っていただいたのがきっかけです。ミディで出すにあたって、あと3曲くらい足してほしいと言われたので、「新婚旅行」「風の道」「サリーガーデン」を足して、上野洋さんにマスタリングしてもらい、10月に発売しました。




yojikとwanda『DREAMLAND』
MIDI Creative CXCA-1278
2100yen (incl.tax)
2010.10.12 release


1. I LOVE YOU
2. ほしいものがほしい
3. この町が好き
4. 緑の旅人
5. 浮き雲
6. 電話をかけて
7. Honey Moon
8. 風の道
9. サリーガーデン
10. 愛は大きな
11. 8月の光



ーー田辺マモルさんの存在が結構重要なんですね。


yojik はい。私が自作をネットにあげていたときから、田辺さんも私のことはご存じでした。というか、私が田辺さんのファンだったので知らせたんですけど。そこから田辺さんがwandaのサイトに飛んだら、「あれ? ●●くん (wandaの本名)じゃないですか!」って。


ーーなんと、wandaさんも田辺さんとつながっていた?


yojik wandaは2002年に田辺さんが中心になって作っていたオムニバス盤『文藝ミュージシャンの勃興』に別名義で一曲提供していたんです。だから、じつは私と組むより前から田辺さんとつながっていたということが判明しました。私は、その彼がwandaとは知らずに、まだ会う前から彼の曲を聞いていたということになります。


ーーそうだったんですね。不思議な縁ですね。


yojik 田辺さんには私が音源を送ったんだと思うんですけど、wandaも私も別方向からではありますが田辺さんと知り合いだったことで、『DREAMLAND』ができたときは、ぜひ聴いてもらって意見を聞こう、というふうに自然となったんです。ちなみに、私は田辺さんのことは単にファンなだけなんですが、ひょんなことから2009年に発売された『転向しよう、そうしよう』というアルバムのジャケット制作に仕事として関わってもいます。


ーーそういういきさつも込みでお話を聞くと、『DREAMLAND』には、yojikとwandaが誕生するにあたっての歴史も含まれている気がしてきます。あらためて聞くと意外なくらい打ち込みの要素が多いサウンドにも、ふたりだけでやりとりをしつつ、wandaさんが自分の音作りを内容に反映していった感じが納得できます。


yojik どっちかと言うと、そっちのほうが私たちは長いんです。弾き語りに何か音を入れたりして。内容は変化してないんですけど、『Hey! Sa!』を作り始めるあたりから気持ち的に変化があったんですね。wandaは「バンドをやってた」って言うんですけど、どうも聞くところによると、あんまり自分で決めないで、みんなで決めていくようなスタイルでやっていて、それがうまくいかなかったみたいなんです。でも『Hey! Sa!』は、みんなでやるといっても、ふたりでやっていた曲がベースにちゃんとあったので、それに入ってきてもらったという感じでした。


ーー『Hey! Sa!』に参加してる面々が、また強力ですからね。


yojik 『Hey! Sa!』からの新しいやり方は、私たちにとってはチャレンジでしたね。まず私はwandaのギターとやってみてすごく楽しくて、次に服部(将典)さんのベースが入ってきたら、もっと楽しかった。じゃあ、次にイトケンさん、sirafuさん、吉田さん……。そうやって、まったく違う個性がからんでくれて、自分たちでやってては出てこない、新鮮なフレーズや演奏の仕方が生まれてきて。でも今思えば、そんな想像を越えた仕事を誰もがしてくれるわけじゃないから、参加してくれた音楽家に恵まれたとしかいいようがないと思います。


ーー失礼ながら、アコースティック主体の男女デュオって、ある意味、楽曲的にも音楽的にも上品でつつましやかなイメージだけが前提になってしまうところがあると思うんです。でも、yojikとwandaは全然違うんですよ。素晴らしい曲だし音楽なんだけど、聞けば聞くほど変だし、毒っぽさもさらっと入れてきて。全然思ってたのと違いました。音も言葉も芯のところでちゃんとはじけたがってる。


yojik 確かに、男性がギターを弾いて、女性が歌うという編成だけで、もう定まったイメージがありますよね。やっぱり、wandaの曲とか歌詞って独特なんですよ。

ーーyojikさんも最初にそこにピンときたわけですか?


yojik 私も、wandaの作った曲を最初から何でも歌えるわけじゃないんです。曲を聞いて、最初は、やれる気がしないときもある。自分のなかで歌詞がピンとくる瞬間まで待ってみるような曲もあります。でも、全部わかってからしか歌わないと決めてるわけでもないんです。「I Love You」とかもそうなんですけど、自分のなかで毎回とらえかたが変わるというか。自分も歌いながら、歌の言葉を聞いてるような……、すごく皮肉っぽく聞こえるときもあれば、そうじゃないところから聞こえてくるときもあって。結構それを自分で楽しんでるところもあるんです。そういう意味でも、wandaが作ってくれたいい曲を聞いて「これ、やりたい!」と思える感じは多くなってきてます。そういう感じの集まりが『Hey! Sa!』になってますね。


ーーたとえば、すぐピンときた曲はどのあたりですか?


yojik 「ぼっちゃん」とか。「閉鎖されてた」もすぐに出来上がった曲でしたね。


ーー「閉鎖されてた」はwandaさんがリードですよね。他にもライヴでやっている「僕のアンナ」もwandaさん。必ずしもyojikさんがリードを歌うことが前提にはなってないんですよね。


yojik どっちがメインで歌うかは、いつもやってるうちに何となく決まるんです。


ーー最初は決めてないんですか?


yojik 私が「絶対歌いたい」と言えば、そうなったりはするんですけど。「あなたのせい」も最初はwandaが歌ってたんですよ。私が歌うイメージじゃないと思ってて。でも、あの曲もあるとき、私にもなんだか歌える気がして、そうなったんですよね(笑)


ーー「I Love You」は、『DREAMLAND』と『Hey! Sa!』の両方に入ってますけど、バックに生演奏が入ってるだけじゃなくて、お互いの歌のパートの割り振りも違いますよね? 『DREAMLAND』ではもっと交互に歌ってる感じでした。


yojik ああ、そうですね。ライヴをやってるうちに変わってきたんだと思います。その塩梅はよくわからないんですけど、結構適当に決まっていくんです(笑)


ーーそこの適当さは、wandaさんと通じ合ってるんですね。


yojik あの人、何でも全部感覚でやってっちゃうんですよ。宅録的な人なのに、クリックとかも使ってないし(笑)。でも、いい加減にやるのがうまいっていえばうまいんですけどね(笑)


(ここで、片付けがひと通り終わってwandaが登場。yojikと交替して次回につづく)






yojikとwandaアルバム『Hey! Sa!』発売記念LIVE」


5月16日(木曜)@下北沢440
出演:yojikとwanda
   〈バンド編成:itoken(ds) MC.sirafu(steelpan,trumpet) 服部将典(contrabass)吉田悠樹二胡,mandorin)〉
   ザ・なつやすみバンド
○ 前売2500円/当日2800円(ともにD別)
○ 開場18:30/開演19:30
○ 予約はメールyoyaku.yowan☆gmail.com(☆をアットマークに変えてください)
 および440店頭販売のみです


yojikとwanda official site


yojikとwanda MIDI RECORD CLUB


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