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なにかあり/とくになし

剣道トリオとの手に汗握らない闘い

昼間、恵比寿で取材を終えてからハイファイに出社。
風の強い一日で、表の看板も出ていなかった。


帰りの中央線でも、引き続き田辺聖子
一冊をちょこちょこと読むから、まだ終わらない。
でも、この文庫本に限っては、そのテンポがいいみたいだ。


「当世てっちり事情」を読み終えて、
傑作だなと満足しつつ顔を上げると、
東中野から乗り込んできた少年3人に囲まれていた。


座席脇の背もたれに立つぼくの“ぐるり”を包囲。
懐かしい匂いがすると思えば、見ると剣道の防具入れを持っている。
小、中学校と、弱かったがぼくは剣道をやっていた。


彼らは中学生だろうか?
にしては、ちょっと小さいか。


ひとりの少年はワックスで髪を逆立てている。
面(剣道の顔防具)を取ってから、それをやるのは大変な気合いだ。
面の下の髪は、ぺしゃんこになっているから。


一番背の高い少年は、
1リットルの牛乳パックを手に持って、
ストローでちゅうちゅうと飲んでいる。


最近は電車の中で飲み食いをする連中は珍しくはないが、
1リットルは初めて見た。
どういう栄養補給だよ。


剣道少年たちの包囲に、それとなく圧迫を感じる。
彼らはひょっとしてぼくの立っているスイート・スポットが欲しいのだろうか?
まあ、どうせあと駅3つだからと、ぼくも無言で粘る。


勝手に息詰まる攻防を脳内で展開。
もし、打ち込まれたら、あれをこうして、こいつをこうして……。


そうこうするうちに中野駅で、かなりの客が降り、
空いた席を目指して3人は去って行った。
1リットル少年だけは座らずに立ったままだ。
やっぱり、あいつ、鍛えてるつもりかね?


この勝負、引き分けだなと、
よくわからないエールを頭の中から送りつつ、
阿佐ヶ谷駅で電車を降りた。