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なにかあり/とくになし

カレーかけましょか

レトルトのカレーにはまった時期がある。
今でも好きなのはカレーマルシェで、
アメリカに買付に行くときに持っていったこともある。


もっとも、向こうにはご飯が無いし、
あったとしても縦長でカリカリのアメリカ米だから、
日本で食べるようにはいかない。


おおむね、スパゲティをゆでて、
その上にドバッとかけることになる。


このカレー・スパゲティについては
賛否両論ある(おもにツマより)。
まあ、料理とは言えないか。


心の中で金字塔が立っているカレー・スパゲティと言えば、
早稲田大学の北門そばにあった「カレーの藤」。


おばちゃんと娘でやっていた店だった。
この娘(芦川よし美似)というのが働き者なのだが、
料理はからっきしだめ。
ごはんをつぐのとカレーをかけることしか出来ない無骨者というのが難点だった。


カレーライスの場合、
ルーのおかわりというのが一回だけ出来るのだが、
芦川よし美は獲物を狙う鷹のように客席を見渡して威嚇。
ここぞと見ると「カレーかけましょか」と鋭く発声する。
言われた方は、電気が走ったように一瞬硬直してしまう。
これも、もうひとつの名物だった。


調子に乗って、
もう一回おかわりを要求しようものなら、
「うちはおかわりは一回だけだよ!」と
厳しく叱責されるのだ。
この冷たさが、またいい。


しかし、結局、おばちゃんの負担が大きすぎた。
肩、肘、腰、すべての体力の限界により
「藤」は90年代前半に閉店してしまった。


その店の定番メニューだったカレー・スパゲティ、
もう一度食べてみたいなと、
ときどき本気で思い焦がれる。


千切りにしたピーマン、タマネギ、ハムを具にして、
メンには軽くカレー粉をまぶし、
仕上げにカレールーと粉チーズをかけるのだが、
その後、似たような味に出会ったことがない。


もし、おばちゃんが健康でご健在なら、
探偵ナイトスクープ」にお願いして、
もう一度食べさせてもらいたいくらいだ。
願わくば、どこかのカレー屋さんでレシピも継承していただいて。


何よりも、あの「カレーかけましょか」が
もう一回聞きたいのだ。


その鋭い声にビクつく用意は
いつでも出来ている。


ちなみに、「藤」の名物は
山盛りのドライカレーの中央をくり抜いて生卵を落とした
通称「スペドラ」こと
スペシャル・ドライカレーだったという異論もあろうが
ぼくは認めない。
これについては、いつかまた書くことがあるかもしれない。