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なにかあり/とくになし

ぼくはエルトン・ジョンがきらいだ

エルトン・ジョンがきらいだ。


あの過剰にロマンチックで
雰囲気を読まない派手派手しさで
××で●●で▲▲なところも
だいきらいだ。


ただし、
ごく一部の例外を除いて。


ひとつは
2枚組の大作「グッバイ・イエロー・ブリック・ロード」に入っている
「ベニー&ザ・ジェッツ」。


アメリカに車で買付に行くと
オールディーズ・ラジオでたまにこの曲が流れる。


叩き付けるようなピアノのリフに導かれた
ひたすらにエモーショナルな進行に
いつでも耳を奪われてしまう。


「この曲、何てタイトルですかね?」と
横でハンドルを握る大江田さんに話しかけてみたいのだが、
なにしろ自分はエルトンぎらいという自負があるので
おいそれとは訊けない。


あるとき、
ふらりと入ったダイナーにあった
CDジュークボックスで
エルトン・ジョン・グレーテスト・ヒッツ」を見つけ、
「ベニー&ザ・ジェッツ」というタイトルだとわかったときは
ひそかに狂喜した。


おどろくべきことに
あのビズ・マーキーも少年時代にこの曲を好きだったらしく、
テレビの音楽番組で
完全コピーに挑戦している(you tubeで視聴可)。


もうひとつの例外は
あの頃ペニー・レインと」という冴えない邦題で知られる
映画「オールモスト・フェイマス」の中で流れる
「タイニー・ダンサー」。


ロックが何かを変えると信じられた時代の
いたいけなまでの純粋さを象徴するアイコンとしての名曲、
なんて言い草はどうでもよくて、
“酔う”ってことの
意味のない意味、
価値のない価値への衝動が
心の底でずきずきとうずくのだ。


昔、しりあがり寿の漫画で、
死に向かう宇宙船の中で
若者たちが「心の旅」を歌うシーンを読んだ記憶がある。


(訂正:「心の旅」ではなく「メロディ・フェア」でした。
 ご指摘をいただきましたので、訂正します。
 なお、収録されていたのは短篇集「夜明ケ」、
 作品名は「小さな恋のメロディ」との情報もあわせて頂戴しました。
 ありがとうございます)


あんなにダサいのに
あれは泣けた。(ギャグ漫画です)


それとダブる。


それでも相変わらず
ぼくはエルトン・ジョンがきらいだ。
ただ2曲の例外を除いて。


残念なのは、
その例外に
ぼくの本当に好きなものが
完璧に表現されている気がしてならないこと。


月の引力と
地球の引力が
互いに引っ張り合って起きる汐の満ち引きのように
ざわざわと心を波立てるから
実にやっかいだ。