mrbq

なにかあり/とくになし

あなたはもう聴きましたか

お店に
顔見知りのお客さんが興奮した面持ちで現れた。


開口一番、
「いやあ、聴きましたよ」とおっしゃる。


え? 何を?


ボブ・ディランクリスマス・アルバムですよ!」
まるで世界中がその話題で持ち切りであるかのように
そのひとは言った。
おもしろい。


ディランが今年リリースした
人生初のクリスマス・アルバムのことは
ぼくも気にしていた。


アナログが出ると告知されていたので
どうせならそっちでと思っていたのだが
お客さんはこらえきれずに
CDでいち早く購入したらしい。


敬意とからかいとためらいが入り交じった関心を
ちらちらと見せるぼくをびしっと牽制するように
お客さんは殺し文句を放った。


「一曲目からチップマンクスかと思いました」


え?
ディランがチップマンクス?
それ、どゆことですか?


どうやら
もともとひしゃげた声が
今回はさらにひしゃげすぎていて
ナチュラルな状態でムシ声に
聞こえてしまったということだった。


おさない子どもに聴かせようという意識が
よけいにその歌唱を
やさしくファニーにしてしまっているのかもしれない。


とにもかくにも
ディランがまさかチップマンクスに聞こえるとは
聴き捨てならぬというか
チップマンクス党としては
聴かねばならぬ。
巷の評判なんかどうでもよろしい。


こんなふうか?
それともあんなふうか?
いろいろ考えて
頭がぶすぶすといぶされた。


こいつで想像してみよう。
ほい


ディランの声がチップマンクスに似ていた!
そんなうわさが広がって
チップマンクス人気が再燃するとかしないとか(しないよ)。


そんなクリスマス・ドリームは
悪夢だってひともいるかもしれないけど
すくなくともぼくにとっては
わるくない。