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なにかあり/とくになし

森へ

京王線の仙川駅で降りたのは
たぶん生まれてはじめてだと思う。


駅前は結構栄えた商店街だった。


地図によると
この先に10分ちょっと歩くと
森があるのだという。


ほんとかよ。


週末の昼間
地元の買い物客でにぎわう街には
そんな気配はない。


心もとない気分のまま
駅を出てすぐに右へ曲がり
すこし歩いて左へ
スーパーのある角を右折し
小さな公園のある辻を左へ
左手に大学が見えてきたら
さらに直進し公民館を目指し
その角を左折し
二本目の道を右折、
あ、森が見えた?と思ったら
坂を下る手前で左折する。


そしてようやく
森の入り口に
小さな案内板を見つけ、
その矢印の指す狭い小道に分け入っていく。


寺尾紗穂さんの
寺尾紗穂のちょっと明るいライヴ Vol.1」が行われた
森のテラス
そんなちょっと特別な場所だった。


ゲストに
バロン&ジョーダンという
気のいいジャズ小唄なコンビが出た。


バロン&ジョーダンの
バロンなかざわさんは
寺尾さんの「アジアの汗」の録音に
今回客演している。


グランドピアノと
ハイビスカスティーを置いたテーブルと
十数名程度の人間が入ったらいっぱいになってしまうほどの小さなスペースで
ライヴはひそやかに
ちょっと明るく
真っ昼間から行われた。


開け放たれたテラスからそよぐ風と
観客としてこの場に居合わせた子どもたちの
予測のつかないアクションが、
いつもついつい
彼女の歌に熱心に耳を傾けすぎてしまうファンの気持ちを
やさしくそらした。


「アジアの汗」を
子どもたちが歌い出しはしないかと
はらはらしながら期待した。


寺尾さんは
はだしでピアノを弾いていた。


彼女の歌に
はだしで駆け回るような
おてんばなキャラクターはあまり出てこないけれど
本当は
はだしの娘がまだまだ隠れているのかもしれない。


終演後
スタッフのSさんとすこしだけ話をした。
この場所でライヴをするのは
去年に続き2度目だそうだが、
そのことについて彼はこう言っていた。


「寺尾さんは見晴らしのいいところが好きなんですよ」


そのセリフが
妙に印象に残った。


4日後には
アルバム「残照」と
シングル「放送禁止歌」が発売になる。