「バード★シット」がやって来る!
朝から急な取材の予定が入ったため
眠い目をこすりながら
朝風呂に身を投げた。
AMラジオをON。
流れだすのはごきげんなヒット曲ではなく
NHKのとりすました朝番組。
湯船に寝汗ごと溶け出しそうな肉体に
いじわるをするように聞こえてきたのは
やけにハイテンションな甲高い声。
「わたくし、ひょうどうゆきが映画情報をお送りします……」
ひょうどうゆきって
あの兵藤ゆきか。あの“ゆきねえ”か。
朝っぱらから風呂場で“ゆきねえ”か。
ソフトな罰ゲームか、これは。
そんな悪態を心中ぶつぶつとくすぶらせていたら
事態は思わぬ展開を見せる。
来月公開される
70年代の名画情報をということで
若い女性宣伝者が番組に招かれていた。
その彼女が紹介した二本の映画の名前を聞いた瞬間、
すべての力が抜けていた全身が
ぶわわっとこわばった!
「70年代ハリウッド・ルネッサンスというシリーズなんですが
第一弾はロバート・アルトマン監督の
「バード★シット」、
第二弾はハル・アシュビー監督の
「ハロルドとモード」です」
ええええええ!
ゆきねえと女!
あななたち朝っぱらから何を平然と言ってのけてんの?
感動と衝撃に肉体が追いつかず
もらした息とおならが
ぶくっと大きなあぶくになるのがせいいっぱい。
一生に一度は大きなスクリーンで見たいと思っていた映画を!
しかも二本立て続けに!
オフィシャルサイトを見に行くと
二本まとめての予告篇もすでにアップされていた。
あかん。
「バード★シット」の予告篇を見ているだけで
泣けてくる。
ポール・トーマス・アンダーソンは
アルトマンの崇拝者として有名だが、
その気持ちが日本人に今ひとつピンとこないのは
「バード★シット」や「ナッシュヴィル」が
きちんと語り継がれていないからだという気持ちがあった。
「ナッシュヴィル」はアメリカではようやくDVD化されたが
「バード★シット」はVHSが一回出たのみで
それもとっくにアウト・オブ・プリントになっている。
ついでに言うと
ハイファイを訪れたお客さんと
つい二ヶ月くらい前に
この二本の映画の話をしたばかりだった。
どちらもサントラ盤が最高で、
なおかつレアなのだ。
ぼくはかろうじて「バード★シット」の方は持っている。
内容は素晴らしいとしか言いようがない。
ルー・アドラーがプロデュースし
ジョン・フィリップスが曲を書き
メリー・クレイトンが歌をうたい
ジーン・ペイジがアレンジをして。
「ハロルドとモード」は入手困難盤として有名だが
映画とともにきちんと音楽ファンにも紹介されれば
キャット・スティーヴンスというひとくせある音楽家が
いかに忘れ去られるべきではない存在か
誰もが痛感するだろう。
二週間単位で順次公開されるこのシリーズ。
最初の二本は
主演のバッド・コートつながりでもある。
その先のラインナップはまだ未定のようだが
剣先は鋭いままのセレクトでお願いします。