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なにかあり/とくになし

MUDA話

サケロックの新作を受け取ったのは
夏の終わりで、
そのときはまだ曲順も未確定で
アルバム・タイトルすら決まっていなかった。


星野源の弾くテレキャスターの音が耳に新しくて
ざらざらと荒っぽく両の耳たぶをこするのだが、
不思議なことに
バンド全体の醸し出す雰囲気は
初期の「YUTA」や「慰安旅行」に近いような印象すら覚えた。


「慰安旅行」に入っている
サケロックのテーマ」に似た
珍しくエイト系のビートが効いた曲があって、
それがとても印象的だったからかもしれない。


それとも
4人だけで作った空気感が似てるから「慰安旅行」なのか、
割とドラマチックな展開の曲が多いように感じるから「YUTA」なのか。


それでも質感は
まぎれもなくあれから数年を経た
現在のサケロックなのだと感じた。


その「サケロックのテーマ」に似た曲をとても気に入ったので
しばらくは
その曲を歩きながら繰り返し聴いていた。


秋にさしかかったころ
曲順が決まり、
アルバム・タイトルも決まったと連絡を受けた。


タイトルは
MUDA」。


それを知った瞬間
驚き笑って嫉妬した。
そして好きになった。


さらにしばらくして
ぼくが繰り返し聴いていた曲のタイトルこそが
MUDA」なのだと知った。
正式な曲順では
「MUDA」は一曲目になっていた。


自分が魅せられたものが「MUDA」。
つまりぼくは
“無駄”に夢中になっていたのだ。
なんだそれ?
歩いていた膝が
かくっと折れそうになった。


意味と無意味の間をひょいと飛び越させるような
その言葉のからくりにはまって
ぼくの心はその場でじたばたした。


まあそんなところが
ぼくの「MUDA」とのつきあいのはじまり。


そしてもうすぐ「MUDA」が陽の目を見る。
こんなきびしい時代に
「MUDA(無駄)」を産むなんてふてえやつらだ。


発売おめでとうございます。