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なにかあり/とくになし

ひらけ駒!

南Q太
ぼくにとって好きなほうの漫画家のはずだが
代表作と呼べるものを今すぐに挙げることが出来ない。


内田春菊岡崎京子安野モヨコ桜沢エリカ
そのほかにもいろいろと
彼女の作風の周辺をイメージすることは出来るが、
乱暴に言えば、
性描写などは結構ある割に
上記女性作家のみなさんより印象が薄かった。


だから
彼女が「週刊モーニング」で
今までとかなり違ったタッチで
しかも将棋漫画の「ひらけ駒!」という
彼女にとって未知のジャンルの新連載をはじめたと知ったときは、
ひとごとながら、
意を決した、感じが伝わってきた。


その「ひらけ駒」だが、
実はとてもおもしろい。


将棋の楽しみを覚え、
ゆくゆくは奨励会入りを目指そうかという小学生と
その母親のお話。


純粋にわくわくしながら将棋にのめりこんでゆく
小学四年生の宝くんが一応の主人公なのだが、
読み進めていくと
本当に作者が描きたいのは
母親の視点だとわかる。


おっ、南Q太、やるな、と思うのは
彼女がそこで
母親の部外者としての視点を
きちんと踏まえているところだ。


部外者だからと言って
息子を含む将棋界にひややかなわけでもないし、
やさしく応援をし、
自分にも将棋を好きになれるところはないかと
それなりに努力をしたりする。


その“当事者としての部外者”感が、
部外者としての当然の態度が、
実はすごく新鮮で
なおかついちいち自然に飲み込めるのだ。


だって
ぼくたちの日常は
非日常に対しては
たいていが部外者だから。


部外者のくせして
いきなり当事者のようにものごとを語りたがるのではなく、
部外者として
きちんとゆっくりしっかりと
当事者になってゆきたいという姿勢があるこの漫画を
ぼくはとてもうれしく思ったのだ。


南Q太の「ひらけ駒!」が
世間的な代表作になってゆくのかわからないけど
すくなくとも
ぼくは読みながらニコニコした。