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なにかあり/とくになし

追想 びっくりしたな、もう

取材用に必要があって
ハ行ではじまる、あるバンドのCDを探しに出かけた。


すでに廃盤ということで
いくつか中古CDショップをまわる。


何軒目だったか。
「ああ、ここもないか」とあきらめかけたとき、
思いがけない文字列が目に飛び込んできた。


びっくりしたな、もう。


いや、びっくりしたからそう言ってるんじゃない。


「びっくりしたな、もう」が
バンド名なのだ。


偶然にも
ぼくは最近
このバンドのことを思い出していた。


ツイッター上のハッシュタグ
「#このバンド知ってる人がRTしてくれる」とかいうのを見かけて、
ぼくだったら
びっくりしたな、もう、って書くかなあと
考えていたからだ。


1980年代の終り、
ぼくはこのバンドのライヴを
何度も見ている。


たしか
大学の一年先輩(女子)と同じサークルで
ギターがうまくて
かわいくて
気の利いたヘンな曲をやる
男の子トリオがいるよと紹介されたんじゃなかったか。


最初に見たのは
下北沢の屋根裏だったと思う。


猿っぽい顔をした
ひょろっとした男の子が
変態的なのに
とてもキュートな曲を
ぴょんぴょんとステップしながら
さくさくと演奏していた。
ほかにもバンドが出ている
いわゆる“ノルマ”のイベントだったが
明らかに実力は抜きん出ているのが素人目にもわかった。


無理矢理にたとえて言えば
「ドラムス&ワイヤーズ」のころのXTCをほうふつとさせる
痙攣気味かつポップなギター・トリオ・スタイルで
とっつきやすい日本語で毒を吐き
そのくせファンはかわいい女の子ばかり。


今こうやって書いていても
夢か幻のようにも思えるが、
こういうバンドこそが
メジャー・デビューすべきなんだよなと
数十人くらいしか客のいないライヴハウス
ぼくは思ったりした。


リーダーはサクと言った。
先輩は「桜井くん」と言っていた。
どうやらぼくと同い年らしかった。
ファンの子たちは、バンド名を「びっくり」と略して言っていた。
ぼくと一緒に見に行った
当時の彼女もすぐにファンになり
「びっくり」「びっくり」と言い出した。


しばらくして
その「桜井くん」が
突如、日本中で話題のひとになった。


先輩の「倉持さん」と急造のデュオを組んで
夕方のテレビ番組に出演し、
「勝ち抜きフォーク合戦」的な企画で優勝したのだ。


彼らは番組のなかで
真心ブラザーズ」と名乗っていた。


「桜井くん」のフルネームが
桜井秀俊だということも
ぼくはこのときはじめて知ったのだ(つづく)。