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なにかあり/とくになし

阿呆と列車と「エピソード」

列車は走る。
異国の西へ。
がたごとと。
ひろがる田園。
小さなおうち。
人馬はうごく。


イヤホンを装着し、
星野源「エピソード」を聴く。


どうしてなのか
目に映る景色は
日本とは遠くはなれた全然違うものなのに
星野の歌に描かれる世界や物語が
しっくりフィットする。


日常という名の人生を生きるひとたちが
窓の向こうで一瞬だけうごめいては
次の瞬間には流れさっていく
この列車は特急。


若者たちの部屋や散歩にひとなつこく寄り添いながらも
星野源の歌には
これくらいの切迫やスピード感が
本当は隠されている、ように思う。


身の回りのささいな出来事や
身の丈にあった感情の動きを歌っているだけでは
ひとの心は動かない。


生きる速度。
前に進む力。


変わらない自分を誓うのではなく
失われるものの価値も知りつつ
変わってしまう自分や世界を
ちゃんと見つめ
ちゃんとおそれ
甘いなつかしさにおぼれそうになりながら
流されそうになっても
歯を食いしばって
前に進む。


アルバムのハイライトである
「日常」のあとに
「予感」という曲で
アルバムをしめくくることの意味とかを
とりとめもなく考えたりしているうちに
遠くに目的の町が見えてきた。


過去は逆流のように
ひとを押し戻す。
未来は急流のように
ひとを飲み込む。


止まっているように見えても
なにも変わらないように思えても
「エピソード」は
いろいろとあらがいながら
前へ前へと動いている。


いずれにしても
日々は早い。
ひょっとしたら特急よりも。


同行のOさんにあとで言われた。
「えらくでかい音で聴いていたね」


ちょっとびっくりした。
そんなつもりじゃなかったのに
いつの間にかヴォリュームを最大近くまであげていたのだ。