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なにかあり/とくになし

続・この素晴らしき世界

二階堂和美が歌った「What A Wonderful World」にやられてしまい、
ルイ・アームストロングのオリジナルも
引っ張りだして聴いている。


この曲を
ルイ・アームストロング(長いので、愛称のサッチモと書く)は
生涯に2回レコーディングしている。


最初は68年。


大ヒットしたと思い込んでるひとが案外多いが
それはヨーロッパでの話。
アメリカではまったくの不発に終わった。


サッチモの大ヒット曲である「ハロー・ドーリー」タイプの
キャッチーでユーモラスな曲を望んだレコード会社の協力を得られず
ろくにプロモーションが行われなかったのだそうだ。


だが
おそらく真相は、
この曲の作者であるボブ・シール(ジョージ・ダグラスという変名で書いた)が
深刻化していたベトナム戦争を背景に
アメリカ政府への異議を唱えて書いた曲だったので
宣伝しようにもできなかったのではないかと思う。


2度目のレコーディングは
1970年に行われた。


結果的に生前最後のスタジオ・アルバムとなった
ルイ・アームストロング&ヒズ・フレンズ」に収録されている。


こちらのヴァージョンは
オリジナルよりも少しだけバネの利いたアレンジで
スタジオ・ライヴに近い雰囲気で録音されている感じだ。


最初に
サッチモの語りが入るのだが、
ここに意味がある。


以下、大意を意訳。


 若い連中に訊かれるんだ
 なあ、おっさん
 いったいこの世界のどこが素晴らしいんだよ
 戦争もあるし飢餓も公害もある
 全然素晴らしくなんかねえよ、ってね
 だけどわたしの言うことをちょっと聞きなよ
 この世界が素晴らしくないとしてもだ
 チャンスをあげなくちゃ
 愛だよ 愛だよ
 それが秘訣
 だからわたしはこの歌を歌うんだ
 この素晴らしき世界


この世界が素晴らしいと単純に信じこんで歌うのと
この世界が素晴らしいふりをしてだましだまし歌うのと
この世界が素晴らしくないと知っていてそれでもあえて歌うのでは
たとえおなじ歌でも
はるかに意味が違う。


ちなみに
サッチモ
アメリカを代表する音楽大使として世界を飛び回る一方で
生涯を通じてマリファナ解放論者でもあった。
マリファナ解禁を求めて
アメリカ大統領アイゼンハワー宛に書いた手紙も残っている。


その件についての
おもしろいエピソードが
鈴木孝弥さん翻訳の本
だけど、誰がディジーのトランペットをひん曲げたんだ?」(うから)に載っている。


箸休めに読みだして
止まらなくなってしまった。