あるベーシストの死
T-ボーン・ウォーク(T-Bone Wolk)が
今月の初めに亡くなったそうだ。
長門芳郎さんと話をしていたときに
その話題が出て
少なからずおどろいたが、
彼のことをすぐに思い出せるひとは多くはないだろう。
え? T-ボーン・ウォーカーの間違いじゃないの?
だったらとっくに死んでるってば。
T-ボーン・ウォークという名前は
当然その偉大なるブルースマンにひっかけたものに違いないが、
彼がその名を残した道はまったく異なるものだった。
このマルチ・ミュージシャンは
ホール&オーツのバックバンドに
80年代以降に在籍したベーシストとして知られている。
30代後半以上の世代にはおなじみの大ヒット曲
「マンイーター」のイントロを支える
もろにモータウン的なベースラインが
彼の名刺代わりのプレイだった。
職人的にしか知られることのなかった彼の名を
ぼくが直接意識するようになったのは
1999年にニューヨークで見た
NRBQのデビュー30周年コンサートから。
ゲストとして登場し
観客から拍手を浴びていた彼のことを
恥ずかしながらまったく知らなかったので
あとでどういう人物なのか教えてもらったのだ。
テリー・アダムスとの交遊は深いもので、
2007年のソロ「リズム・スペル」では
トム・アルドリーノも含めたトリオ・バンドとして
大きな貢献を果たしている。
いつだったか忘れたが
一度楽屋で握手させてもらった記憶もある。
それにしても
去年から
テリーのまわりでは
スティーヴ・ファーガソン、キャプテン・ルーと訃報が続いていて
さすがに結構せつないものがある。
長門さんが彼の死を知ったのは
ザ・バード&ザ・ビーの
インターネット・ライヴを見ていたときのことだという。
彼女たちの新作は
ホール&オーツのカヴァー集で、
そのお披露目のライヴで
悲しいニュースが知らされたのだった。
ともあれ
それもまたひとつのタイミングではある。
T-ボーン・ウォークは
目立ったソロ作品は残さなかったが
彼がミュージシャンとして生きた証は
もうすこし知られるべきだ。