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なにかあり/とくになし

ハロルドとモード。ぼくとモード。

過日、
シメキリ女中が見張る目を盗んで
新宿武蔵野館まで「ハロルドとモード」を見に行った。


ロードショー公開はすでに終了。
レイトショーのみの上映に切り替わっている(8月13日まで)。
なんとなく混み合う予感がして
早めに整理券を取りに行くと
一時間半前にして
すでにかなり後半。


実際に上映がはじまるころには
うしろに立ち見まで出るほどの盛況だった。


ZIGGY FILMS '70 70年代アメリカ映画伝説」と銘打たれた
今回の二本連続上映。
センセーショナルな発掘という意味合いでは
最初の「バード★シット」が話題を呼んだが、
着実な動員という面では
やはり「ハロルドとモード」の方が上みたいだ。


ハロルドを演じるのは
バード★シット』に続いての主演となるバッド・コート。
アメリカ人男性としては度を超した童顔と、
40年の時を超えて
現代的なギーク(おたく)臭すら漂うルックスと
趣味は偽装自殺と他人の葬式への参列だという現実社会への反抗心に
元・少年としては感情移入すべきなのだろう。


なにを考えているかわからないと周囲から見なされる少年。
それは本当は
なにを考えていいのかわからない少年でもある。


しかし、
ぼくの年齢のせいもあるかもしれないが
むしろ役柄の気持ちに断然惹き付けられてしまったのは
ルース・ゴードン演じる79歳の老女モードの方だった。


なんだろう。


年齢を経てもチャーミングでいられるかということ。
自分とはかけ離れた世代になにを伝えられるかということ。
そして
文字通り死ぬまで恋をできるかということ。


そっちからつきつけられたものの方が
ぼくには大きかった。


大きな瞳を中心にした豊かな表情が素晴らしい。


あとで思い出したが
彼女はあの「ローズマリーの赤ちゃん」に出て来る
隣の部屋のでしゃばりばあさんだ。


あの役で
その年のアカデミー助演女優賞を獲得した彼女が
2年後に取り組んだのが、
このモード役だった。


あの野暮で不気味でうざったい世話焼きばばあが
ここまでかわいらしく変貌するものなのか。


脚本家としても著名な彼女は
裏方、俳優の両方で
オスカーにノミネートされた才女でもあった。


モード役を演じたのは75歳のとき。
そしてモードよりも長く
88歳まで生きた。


終始ゴードンに押されっ放しのバッド・コートだが
劇中の重要な場面で彼が弾く
バンジョーの調べは素晴らしい。


もしぼくが音楽プロデューサーで
だれかにバンジョーをお願いするとしたら
現代に一番欲しい音色があれだ。


真摯な気持ちと
おぼつかない手先が奏でる
十数秒のメロディ。


あれは
奇跡と言っていいんじゃないか。