mrbq

なにかあり/とくになし

感激! 偉大なるライノ! その1

mrbq2010-10-22

今日から一週間は
28日に向けて
ぼくの誕生日ウィークであります。


10月28日で
42歳になりますの。


というわけで(どういうわけで?)
いつかどこかで書こうと思っていた文章を
連載形式でしばらく書かせてもらいます。


忘れてしまわないようにするための
覚え書きという意味もあるのですが、
おつきあいいただけたらさいわいです。


ぼくと
ぼくの人生をすくなからず変えた
奇妙な連中との出会いの話です。


タイトルは
「感激! 偉大なるライノ!」
28日でうまく大団円出来たらいいんですが、
それはまたなりゆきまかせってことで。


===================================


感激! 偉大なるライノ! その1 松永良平


南カリフォルニアのロサンゼルス界隈には
ライノ・レコードと名乗る会社と店舗が
今もひとつずつ存在する。


だが
実はそのどれも
正確に言うと
オリジナルのライノではない。


レコード会社として現在存続しているライノは
今なお質の高い再発を行っているイメージがあるが、
1999年に当時のタイム・ワーナー・グループに完全に吸収合併されて以降は
ワーナー・ミュージックのカタログ部門(旧譜再発部門)に特化した活動になってしまった。


レコード・ショップとしてのライノは
かつてはロスの南東部ウェストウッド通りにあったが、
ずいぶん前にロスから車で一時間ほど離れた街に移転した。


だが実は
それはライノ・レコード・ストアがそのまま移転したのではなく
ライノ・レコードの名前の権利を買い取って出来た別の店だった。


オリジナルの、
つまり1973年に開店したウェストウッドの風変わりなレコード・ショップとしてのライノ、
そして1978年に発足したインディペンデントなレコード・レーベルとしてのライノ。
それはもうどこにも残っていない。


もちろん
そのスピリットまでなくなってしまったわけじゃない。
一部の有能なスタッフはワーナー傘下のライノにも引き継がれ、
ビル・イングロットやヒュー・ブラウン、ゲイリー・スチュワートらが
すぐれた仕事を続けたし、
他にもライノの元メンバーたちが運営に大きく関わっている
シャウト・ファクトリーという新たな制作プロダクションもある。


だが、
ぼくが幻のように追い求めてしまうのは、
あの野心的でいたずら好きで
ヘソマガリで反逆的で
チープだがセンスがよくて
マニアックだが頭がやわらかくて
音楽が大好きすぎてどうしようもない連中が
ロサンゼルスの一画でうごめいていた姿なのだ。


ぼくが買付でロサンゼルスに行くようになったときには
すでにウェストウッドのライノ・レコードは跡形もなくなっていた。


ライノの閉店に間に合わなかったという事実は
ときどき思い出したように
ぼくをくやしさで苛んだ。


自分が
レコード屋として
ライターとして
心のどこかで
初期のライノを指標として働いているという気持ちがあるからだ。


ぼくが寝ぼけたようなつまらない原稿を書いてしまったか
これから書こうとしているときには
イラストレイターのウィリアム・スタウトが生み出した
リーゼントと革ジャンを着込んだサイのキャラクター、ロッキーが現れては
「しけたことしてんじゃないよ」と言ってくれているような気が今もする。


これから書くのは
そんなぼくに起きた
ささやかなミラクルについての話。


それは
今年の5月初旬、
ビル・イングロットから届いた一通のメールではじまった。(つづく)