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なにかあり/とくになし

「花とみつばち」と「モテキ」

映画「モテキ」を見て
安野モヨコの「花とみつばち」を
何故か思い出していた。


安野モヨコの漫画が
すべて好きなわけではないけど
花とみつばち」が
ちょっと忘れ去られた作品になってしまっているのが
リアルタイムの読者だった身としては
もったいなく感じることがある。


男性誌(「ヤンマガ」)での連載という点で
その後の傑作「働きマン」(これは「モーニング」だったけど)の影に
すっかり隠れてしまった感がある。


コンセプトで言えば
花とみつばち」は
モテキ」を明らかに先んじていた。


ただし
冴えない若者を
ヤリテの歳上美女たちが
オモチャ同然にもてあそびながら
モテる男に仕立て上げようとするという話のつくりや
わかりやすい(漫画的な)キャラクター設定が
現代的に言うと
もうおとぎ話になってしまっているのだろう。


思い出したのは
花とみつばち」のなかで
魔女的存在の美女が主人公をコーディネートするときに
したこと。


彼女たちがしたのは
高いジーンズを履かせること。
何でも高いものを身につけりゃいいんじゃない。
ジーンズさえホンモノでバッチリきまっていれば
上はパチモンのTシャツを羽織っただけでも
めちゃくちゃしゅっとして見えるというリクツ。


漫画の上のヘリクツとも思えたけれど
今日までそれを覚えているってことは
ぼくもかなりの野暮天というわけで。


まあそれはいいとして、
何故それを突然思い出したかを。


映画「モテキ」は
画面に映るディテールで
手を一切抜いていなかった。


登場人物は
実在する会社に勤め
実在する漫画やCDを好み
実在する雑誌のエログラビアを
実在するコンビニで立ち読みし
実在するホテルでセックスし
実在する街に住み、
そのうえで
つくられたフィクションを生きる。


そのことで
どれほど絵空事や荒唐無稽が描かれていようが
物語はしっかりした足場に立つことが出来る。


どんなに社会派ぶった物語を描いていても
登場人物が読んでいる新聞が
「毎朝新聞」だったら
一気に魂のチンコが萎えるのと逆で。


あれ?
しかもそれって
花とみつばち」の
ジーンズとTシャツの話にも通じるんじゃない?


そのとき突然
忘れかけていた漫画が
ぼくのなかにむくむくっと立ち上がってきたのだった。